第10話
「私は、儀式をしなくてはならない……」
柊水は火織の手を離し、ふらふらとした足取りで儀式を再開しようとした。
しかし、火織が再び柊水の手を取った。
「だめですっ!!」
火織が珍しく大きな声を出した。
「だめです。そんな状態で、儀式を続けたところで……そんな意識朦朧とした状態で、自分が水をどう扱いたいのかちゃんと考えられるのですか!?」
火織は掴んだ柊水の手を見る。
細い。いや、痩せている、すごく。
前に、柊水がちゃんと食事をしているのか聞いた時、空が何とも言えない表情をした理由が今、わかった。
あんまり食べていないのだ。
食事も忘れて儀式をしていたのだ。
「私、幼い頃……自分が呼び出した炎が怖かったんです。怖いって思ったら、手のひらに収まってた炎が自分の背丈以上に大きくなってしまって……もっと怖くなった。そしたら、炎を消せなくなって、霊力を使いすぎて倒れたんです」
柊水は黙って火織の唐突な昔話を聞いていた。
「私に術の使い方を教えてくれた母がこう言ったのです。『自分の力とちゃんと向き合わないとね。自分の力がどんなものか知れば怖くなくなる。そして、その力をどう使いたいのか常に考えなさい。何となくでは、上手に使うことはできないからね』そう言ったんです」
(これが、雨が降り続ける原因の1つかもしれない……)
「柊水様、ちゃんと自分の力と向き合えてますか?怖れていませんか?自分がその力をどう使いたいのか、ちゃんと考えてますか?」
今の火織は、霊力を使いすぎたり、炎を暴走させたりすることはない。
扱い方に慣れてきた。だけど、常に考える。
自分はこの炎を、大きさ、形、どう動かしたいのか……漠然とではなく、細かく考える。
火織はじっと柊水の青い瞳を見た。
「怖れ……」
柊水がそう呟くと、ガクッと膝から落ちる。
「しゅ、柊水様っ」
柊水の顔を覗き込むと、先程より顔色が悪いことに火織は気づく。指先もとても冷たい。
「ちょっと待っててください!!空さんっ!!柊水様がっ……!!」
屋敷の一室……すぅすぅと、規則正しい柊水の寝息が聞こえる。
側にいた火織はそっと柊水の手を握る。ちょっとひんやりしているが、先程の氷のような冷たさはなくなった。
火織はふと、柊水が倒れる間際に『怖れ』と呟いたことを思い出した。
(柊水様は、自分の力を怖れている……それで、上手に使いこなせなくて雨が降り続けてしまっているのかしら……)
柊水の体調が良くなったら、ちゃんと話をしてみようと火織は思った。
(私に、どこまで出来るのか……)
火織はぎゅっと柊水の手を握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます