第9話

あれから毎朝、空と共に屋敷付近に邪の者がいないか見回りをし、発見したら退治している。

空とは関わる機会が増え、今では食事は一緒に食べている。


柊水とは一緒に食事をしないどころか、顔すら見ていない。


元々、朝から晩まで屋敷の側にある神殿に籠って儀式をしているので柊水とは会う機会が少ないのだが……


(避けられてる……よね)

柊水に無駄だと言われても、雨が降り続ける原因探しをすると宣言したのだ。


「めんどくさいヤツだなーって思われてるわねぇ……きっと」

火織はそう呟きながら、本をペラペラ捲る。

空にお願いして、水神の代行者に関する書物を持ってきてもらったのだ。

まずは知識。

火織も神の代行者については知らないことが多い。

知識がなければ、今後の雨が降り続ける原因探しの計画が立てられない。


「絶対に見つける。絶対に……」

柊水のためでもあるし、今後、柊水と同じような事に悩む神の代行者が現れるかもしれない。その時に早く解決できるようにするためでもある。

そして、里の人々のためであった。

不作で満足な食料がなく不安な人のため。

再び火織のような霊力の高い娘が無理やり嫁ぐという状況を無くすため。




「う~ん、さすがに疲れてきた……」

長時間、本を読み続けて目がしぱしぱしてきた火織。

ぐーっと大きく伸びをして、少し外の空気を吸おうと縁側へと出た。


今日も相変わらず、ざあざあと雨が降っている。

「紫陽花……部屋に飾ろうかな」

火織はふと、庭に咲いている紫陽花を見てそう思った。

この御屋敷内、殺風景なのだ。

必要最低限の物しか置いておらず、生活感がとても薄いのである。

火織が寝起きしている部屋と、居間に紫陽花でも飾ろうと考え、火織は傘と鋏を持って庭に出た。


「どの紫陽花が綺麗に咲いてるかな……」

庭をふらふら歩く火織。

そんな時、しゃんっと鈴の音が聞こえた。

火織は屋敷の側にある神殿の方を見た。

たぶん、儀式で使う神楽鈴の音だろう。時折、柊水の祝詞を言う声も聞こえた。


「あ、あの紫陽花すごく綺麗」

神殿の側で咲いている紫陽花が綺麗な青色だった。

火織はその紫陽花に近づき、鋏で切ろうとした時……


ガシャンッ!!


火織はハッと音がした方を見た。

神殿からだ。


「今の音……神楽鈴を落とした音?」

手が滑って落としたのだろうか。

しかし、火織の胸がザワザワしていた。


火織は神殿の方に近づき、扉の前に立った。


(何も……音が聞こえない)

再び神楽鈴の音や柊水が祝詞を言う声が聞こえないのだ。


火織は意を決して扉を叩く。

「柊水様、大丈夫ですか?神楽鈴を落としたような音が聞こえたんですが……」

しかし、柊水からの反応がない。

「柊水様!!」

火織はもう一度、柊水の名前を呼ぶが、やはり、反応がない。

「柊水様ごめんなさい、扉を開けますね!」

火織はそう言って、扉を開けた。


部屋の真ん中、倒れている人物がいた。


「柊水様!?」

火織は慌てて柊水の側にいく。

「火織……さん?」

柊水の意識はあるが、顔色がすごく悪い。

「柊水様、顔色がとても悪いです!御屋敷に戻って休みましょう!空さんを呼んできますっ……!」

火織が空を呼びに行こうとすると、手を掴まれる。

しかし、柊水が火織の手を掴む力はとても弱かった。


「いいです……空を呼ばなくて、いい。私は大丈夫です。問題ありません」

柊水はそう言って、落ちている神楽鈴を掴み、ゆっくり立ち上がろうとする。

しかし、息は荒く、ふらつき、火織がとっさに柊水の体を支える。


「私は、儀式をしなくてはいけない……。ずっとやっていれば、降り続ける雨を止めることができるかもしれないから……」

柊水は、ボソリとそう呟いた。

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