第8話

ハッと目を覚ます火織。


ゆっくりと起き上がり、火織はそっと部屋を出た。

まだ日の出前。そして相変わらず雨が降っていて外は暗かった。


「この気配……」


火織は傘を持ってきて庭に出る。

そして、気配がする方へと歩いていった。

この気配を火織はよく知っている。

嫌な気配……ほっといてはいけない。


歩いていると、紫陽花の咲く低木辺りでガサッと音がした。

火織は息を潜める。


ゆらりと動く黒い影。邪の者だ。


(かなり大きい……犬?いや、あの尻尾と耳は狐だわ)


火織は目を凝らし暗闇の中で動く黒い影を観察する。

狐の姿をした邪の者は、一匹しかいないらしい。


「炎よ、猟犬となれ。そして、狐を狩りなさい」

火織の手のひらから現れた炎がぐぐっと大きくなり、猟犬へと姿を変えると邪の者に飛び掛かり邪の者の首元に食らいついた。

噛みつかれた邪の者は灰になって消える。

役目を終えた猟犬は火織の元に近づき、火織が頭を撫でるとすうっと消えた。


火織がホッと一息をついたその時、ガサガサッとさらに音が聞こえる。


(まだ邪の者がいたの!?)


火織が警戒した時、青い炎が現れて辺りを照らす。

そこにいたのは、1人の青年だった。

「え、空さん?」

「火織さん!さっきの狐の姿をした邪の者、火織さんが退治したんですか!?」

「えぇ、はい。私が退治しました」

火織がそう言うと、空はガシッと火織の手を掴む。

「すごい、華麗でしたね!手慣れた様子でしたけど、邪の者退治、得意なんですか?」

「はい。里に現れた邪の者はほとんど私が退治していたので……でも、代行者様の住む場所にも邪の者が出るんですね」

火織のその言葉に顔を曇らす空。

「……里の人々の柊水様への不満の想いが、この場所に邪の者を招きやすくしているんです。邪の者が寄り付きやすいのも雨が降り続ける原因の1つだったりします。邪の者の悪い気が儀式の妨げになったりするんです」

「もしかして空さん、毎日この時間に邪の者がいないか見回りを?」

火織がそう聞くと、空は頷いた。

「はい。柊水様が儀式を行う前に、私がこの辺りに邪の者がいないか見回りをしています。見つけたら退治するのですが、先程の火織さんのように、素早く退治できるようになりたいです……」

空がそう言うと、火織はギュッと傘を持つ手に力が入る。

「空さん、私もそのお手伝いをさせて下さい。邪の者がいたら、私も一緒に退治します!それに、退治の際の術の使い方で教えられる部分があるかもしれないですし」

火織がそう言うと、空は目を見開いた。

「いいんですか?毎朝、とても早いですけど……」

「大丈夫です。早起き苦手ではないので!」

空は「ありがとうございます!」と言って頭を下げた。


その後、空と一緒に庭を見回り、邪の者がいないことを確認して屋敷に戻った。


「火織さん、お疲れ様です。寝ても大丈夫ですよ。朝食ができたら起こしにいきますので」

「他に手伝えることがあるなら、私やりますよ」

火織がそう言うが、空は首を横に振る。

「大丈夫です。後は私がちゃちゃっとやりますから」

「そうですか……なら、ちょっと寝ようかな」

火織は部屋に戻り、布団の上にコロンと転がった。


雨が降り続ける原因探し……少しだけだが、原因を取り除くことができて、火織は今後も頑張ろうと強く思った。

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