第7話

昼になっても柊水は見当たらず、夕食を頂く時も空はいたが、柊水の姿はなかった。


「あの、空さん。柊水様は朝早くから、夜遅くまでどこに?」

火織は夕食を食べながら空にそう聞いた。

「……この御屋敷の側にある神殿と呼ばれる儀式を行う場所に籠っています」

「一日中籠っているんですか?」

「えぇ。毎日、あの神殿に籠って儀式をしています」

毎日と聞いて火織は不安になった。

「一日中儀式を行って……いつか倒れそうで心配ですね」

火織がそう言うと、空は目を伏せた。

「そうですね。ですが……絶対に手を出すな、と柊水様に言われてますので、止めることができません」


その話を聞いて、火織はますます雨が降り続ける原因探しを手伝いたいと思った。



中々、柊水が帰ってこず火織がうつらうつらしてきた時に、ようやく柊水が帰ってきた。


「柊水様……おかえりなさい」

「火織さん!?寝ていて良かったのに」

「いえ、柊水様と話したいことがあって」

「そうですか、私も火織さんに話しておきたいことがあって……居間に行きましょうか」


2人は居間に行き、向き合って座った。


「あの柊水様、話って……?」

「火織さん、今後どうしたいですか?」

「え、どうしたい……というのは……」

火織を首を傾げれば、柊水が詳しく説明する。

「里に戻るか、別の里に行くか。元の里に戻るなら、今すぐ戻るのはやめた方がいいでしょう。また、あんなことになってはいけませんから……。もう少し時間が経つまでこの屋敷で過ごしてください。別の里に行きたいのであれば、知人に頼んで手配します」

火織はどう返事をするべきか悩んだ。

柊水は優しく微笑む。

「今すぐ返事をしなくても大丈夫です。ゆっくり考えてください」

柊水にそう言われ、火織はコクコクと頷いた。


「それで……火織さん、話とは?」

「あ、助けてくれたお礼がしたくて……」

「別にお礼なんて」

「雨が降り続ける原因探しをしたくて」

火織がそう言うと、柊水の顔が強張った。


「無駄ですよ」

柊水は、冷たくそう言う。

「何で無駄だって……」

「……水神の代行者になってすぐの頃は、水神から頂いた神の力が体に馴染んでおらず、自分の体に違和感がある状態で、里長に頼まれて雨を降らせる儀式をしました」

過去を語る柊水の顔は苦しそうだった。

「一度、雨を降らせてから止めることが出来ず……まだ神の力が体に馴染んでないから儀式が上手くいかないのかもしれないと、空に言われ、焦らずにいこうと思っていました。でも……体の違和感もなくなった頃に儀式をやっても雨は止まらない。儀式のやり方に間違いがあるかもと調べても、間違いは見当たらない。色々、空と共に調べましたが、わからない……」

柊水は、拳をギリギリと握りしめていた。

「原因は、私が出来損ないだから。それ以外、思いつかないのです。だから、無駄ですよ。原因探しなんて、意味がない」


柊水が立ち上がる。

「もう時間も遅いですし寝ましょう、火織さん」

だけど、火織は座ったままだった。


「嫌です。私、嫌です。諦められません。『出来損ないだから』という一言で終わりたくないです。柊水様が出来損ないだなんて、思えない!こんなに優しくて、一生懸命な人が、出来損ないという理由1つで終わるなんて……!」


火織は立ち上がる。


「探します。雨が降り続ける原因は何なのか」


「……無駄ですよ」


柊水はもう一度そう言う。

しかし、火織は首を横に振る。


「私にしか見つけられないものがあるかもしれません」


「……そうですか。では、貴女の気が済むまで、お好きにどうぞ」


柊水はそう言うと、部屋を出ていった。


火織は、ペシッと自分の両頬を叩いた。


「絶対に、見つける」

火織の紅色の瞳が、本物の炎のように赤く、輝いたように見えた。

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