第6話
翌日、熱が引き火織は元気になった。
布団を綺麗に畳んで、火織はそっと襖を開けて隣の部屋を覗く。
隣の部屋も広い部屋で、大きな机の上には味噌汁と炊きたてのご飯、漬け物が置かれていた。
1人分の朝食しかないが、誰のだろう。
火織がキョロキョロ辺りを見ながら部屋を歩いていると、ガタッと障子が開く。
「あ、おはようございます」
姿を現したのは、銀髪を空色の紐で1つに括った少女……ではなく青年だ。
1つに括った銀髪、つり目に目尻に少し朱色……昨日、火織を看病してくれた空という少女にそっくりだった。
「えと、空さんの……お兄さん、とかですか?」
火織がそう聞くと、空は「いえ、違いますよ」と言う。
「え?じゃあ、どちら様……」
「空です。昨日、貴女を看病した空です」
火織はそっと頭を押さえた。
今、彼はなんて言った?空?
空は、ぽんと手を叩いた。
「見た方が早いですよね」
「え、見る?」
火織が首を傾げた瞬間、空が青い炎に全身包まれる。
青い炎が消えると、昨日、火織が見た少女が現れた。
「え、えぇ!?一体、何が……!?」
「私は、狛犬です。狛犬族は、神の代行者に仕える一族です。ちなみに、性別はありません。仕えている主人の望む姿で基本は過ごしています」
空がそう説明し、再び青い炎に包まれる。
「こっちの姿の方がいいですかね」
今度は、もふもふの犬の姿になった!
「か、可愛い……!な、撫でてもいいですか?」
「まぁ、頭ぐらいは良いですよ」
火織は狛犬姿の空の頭をそっと撫でた。
「わぁ、ふわふわ……」
しばらく、火織がもふもふを堪能した所で、空は元の青年の姿に戻った。
「朝食が覚めてしまいますね、こちら、火織さんの朝食です。ちょっと質素ですが……」
机に置かれていたのは火織の分の朝食だったようだ。
「わざわざありがとうございます!あの、空さんや柊水様の朝食は……」
「私は、もう食べました。柊水様は……別の時間帯に食べてますので、ご心配なく」
柊水の食事について歯切れが悪い空だったが、とりあえず別の時間帯に食べているようだし、心配しなくて大丈夫だと言われているので、火織はありがたく用意してくれた朝食を頂いた。
朝食を食べた後、何か手伝えることはないかと空に聞いたら、「熱が引いたばかりだから、もう少しゆっくりお休みください」と言われ、火織は再び寝ていた部屋に戻った。
「これからどうしよう……」
火織はコロンと畳の上に転がった。
柊水は花嫁を望んでいない。体調が回復したなら火織はここを去るべきだろう。
しかし、あの里には戻るのは危険だ。また戻ろうものなら、見つかり次第、火織は再び拘束されてこの柊水の屋敷付近に置いてこられるだろう。
ふと、火織は初めて柊水と会った時のことを思い出した。
なぜ、雨を止めることができないのかと聞いたら柊水は、自分が出来損ないだからだと答えた。
そう答えた柊水は、全てを諦め、そのまますうっと消えてしまいそうな危う儚さがあった。
その様子を見た火織は何とかしたいと思ったことを思い出した。
「柊水様に会ったら、ちょっと聞いてみよう……!」
助けてくれたお礼も兼ねて、雨が降り続ける原因を探すお手伝いをしようと火織は思った。
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