第4話
大樹の近くに里長や輿の担ぎ手の2人がなぜいるのか、不思議に思いながら火織が大樹の方に向かって歩いていると、1人の男が火織に気がついた。
「里長、火織殿が……」
里長と火織の目があった。
「火織、なぜ戻ってきたのだ」
「水神の代行者様が、私は花嫁など望んでいないと、だから帰りなさいと言われました。里長、代行者様について聞きたいことが……」
火織が水神の代行者について聞こうとした時だ。
「火織を捕まえろ、そして縛れ、目隠しと猿ぐつわもしろ!」
里長がそう言うと、一緒にいた輿の担ぎ手の男2人が火織を押さえつけ、荒縄を取り出して火織の手足を縛っていく。
「里長!?これはどういうことですか!!ちょっと、やめて!」
男達の手を振り払おうとするが、相手は成人男性2人だ。
華奢な火織ではどうすることもできず、あっという間に縛られる。
「里長!!」
「お前には、水神の代行者の元へ行ってもらわないと困るのだ。全ては、里の者の不安をなくすために」
里長のその言葉を聞いて火織は悟った。
生け贄だ。
水神の代行者の元に霊力の高い娘が嫁いだから、きっと大丈夫。もうすぐ、雨が止んで、今年は作物が育つ……そういう束の間の安心感を里の者に与えるために、火織を水神の代行者の元に行かせるのだ。どんな形でも、行かせる必要があるのだ。
それを悟った時には、火織は目隠しをされ、猿ぐつわをされていた。
「鳥居の所に火織を置いてこい」
里長がそう言うと、2人の男は火織を担いで鳥居に向かって行った。
火織は、縛られた手足を何とかしようと踠いたが、容赦なくキツく縛られており、ほどくのは至難の技だった。
(縛られた手足は痛いし、寒い……水を吸って白無垢がすごく重く感じる……)
男達に担がれている火織は、直接雨に降られており、寒く、水を吸った白無垢は重くなっていた。
しばらくすると、べしゃっと濡れた地面に火織は転がされた。
たぶん、鳥居の所に着いたのだろう。
火織を担いでいた男達が、走ってその場を去る音が聞こえた。
火織は、縄をほどこうと動くが、冷えてかじかんだ指は上手く動かず、水を吸って重くなった白無垢がより一層、動きにくさせていた。
火織に降り注ぐ雨が、石の礫のように火織の体を叩きつける。
じわじわと、火織の体温を奪っていく。
冷たい、寒い、痛い、怖い……
(誰か……)
助けて、と火織が祈ったその時。
バシャと、誰かが水溜まりを踏んだ音が聞こえた。
「大丈夫ですか!?」
火織はその声を聞いて、安堵する。
抱き起こされ、手足を縛っていた荒縄、猿ぐつわ、そして目隠しを外される。
銀髪に青い瞳、そして左頬から首筋にかけての水の波紋柄の刺青。
「水神の代行者様……ありがとうございます……」
それだけ言って、火織は意識を手放した。
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