第3話

「リョースケ、悪いけど状況が変わった。この男の話を聞きたい。すぐにこの場を収めて欲しい」


「すぐ、か……。少し手荒になってもいいか?」


「構わない。でも、やり過ぎないようにね」


「りょーかい!」


 涼介が顔を上げると、未だ目を回している小太りの彼を追ってきたのだろう。何頭かの山羊獣人カプロキスがこちらへと迫っている。何より不用意に危険をノイノイへと近づけさせるわけにはいかない。急ぎ迎え撃つことにした。


練式魔法アドベントフォース、アイシクル!」


 涼介は突き出した掌から細かい無数の氷の矢を撃ち出すと、それを全身に浴びた獣人たちは堪らず怯む。

 牽制の隙にノイノイを小脇に抱え、小太りの襟首を掴むと馬車の方へと大きく跳躍した。

 当然、護衛たちは獣人たちの包囲網を飛び越えて現れた涼介に驚くが、彼らに細かい説明をしている暇はない。「味方だ」と一方的に声を掛け、一先ず安全確保を優先することにする。

 小太りの彼をぞんざいに放り出し、ノイノイを馬車の傍に立たせると、シャフトを素早く逆手に握り直して足元に突き立てる。そして体内の魔力マナを練り上げ、シャフト伝いに一気に放出した。


練式魔法アドベントフォース、アイスウォール!」


 張り上げた声とともに地面から涼介を中心に、氷が円を描くようにせり上がる。それは獣人と護衛たちとの間を隔てる壁となり、物理的な接触を妨げることを意味していた。

 邪魔をされた獣人は怒りに任せて棍棒で殴りつけるも、氷の壁はびくともしない。

 一先ず安全な状況を作り出した涼介はホッと一息吐くと、氷壁の内側に手を添える。


「アイシクル」


 突如、氷の壁から飛び出す鋭い穂先が次々と山羊獣人カプロキスたちの身体を穿つ。

 その一方的とも言える攻撃に山羊獣人カプロキスたちは途端に浮足立ち、やがて敵わないと見たのか群れのリーダーらしき一頭の号令のもと一斉に退却を始めた。

 暫くして今までの騒ぎが嘘のように、森が鬱屈とした日常を取り戻す。

 近くに獣人たちの気配はない。もう大丈夫と確信した涼介は氷壁を霧散させる。

 山羊頭をした襲撃者たちの波が引くかような見事な引き際、それと涼介の異質な戦闘能力に護衛たちは暫し呆気に取られていたが、それでも何人かはすぐに我に返り、疲れ、傷ついた身体を叱咤しながら、無残に横たわる馬車の入り口へと集まってきた。


「ミラオルテ様っ!」


 護衛たちが手を差し伸べ、損傷激しい馬車の中から救出されたのは一人の金髪の少女。

 彼女こそ護衛たちが守りたかったものらしい。足元はふらついているが、大きな怪我している様子はない。乗り込んでいた馬車が派手に横転したにも拘らず、それだけで済んだのは寧ろ幸運とも言えよう。

 守るべき者の無事を確かめた護衛の長らしき人物はそこで漸く涼介の方へと向き直り、深々と頭を下げた。


「どこのどなたか存ぜぬが、感謝する。助けて戴いたこの恩は決して忘れぬ」


「いや、俺は頼まれただけなんで、お礼なら彼女に」


 と、傍らに立つノイノイを指差すが、


「お礼は不要だよ。こちらの都合で動いただけだから」


 彼女もまた、それ以上の謝意を拒んだ。


「いやいや、それでは私の気が収まらぬ。このタワードが忠誠を誓いしミラオルテ様にもしものことがあれば、ミラオルテ様の父君に顔向けできないどころか――」


「じゃあ、その男のことで聞きたいことがあるんだけど」


 尚も頭を垂れ、礼を尽くそうとするタワードと名乗る護衛の言葉など興味がないとばかりに言葉を遮ったノイノイは、未だ目を回したままの小太りの男の方に目を向けた。


「は、あの者……、か?」


「そう、あの男。多分、この国の人間じゃないよね?」


 ノイノイのいきなりの指摘にタワードは一瞬言葉を失うが、恩人に誤魔化しはしたくないとでも考えたのか、慎重に言葉を選びながら答え始めた。


「あの者のこと……、ご存じなのか?」


「個人的な面識はない。が、恐らく私のツレ……、先ほど山羊獣人カプロキスを追い返したこの少年と同郷の者だろう」


「そうか……。実は一週間程前、何の前触れもなく我々のところへやってきたのだ」


「ほう、それで護衛として雇っていると?」


「本音を言えば、出自が分からぬ者とはあまり関わりたくなかったのだが、胡散臭いからこそ放り出すのも不安を残す」


「胡散臭い?」


「そうだ。自分には不思議な力がある、必ず役に立つと。似たようなことを言って取り入ろうとする者も少なくない中、この者の目は不思議と嘘をついているようには感じられなかった。とりあえずその日の寝床にも困っていたようなので、私の目の届くこの護衛隊に所属させていた、というわけだ」


「なるほど。けど先程はあまり役には立ってなかったようだね」


「戦闘技術で言えば未熟の一言に尽きるな。しかし、こうして恩人との縁になったことを考えると、彼のいう不思議な力とやらも強ち否定出来ないものだ」


「彼と直接話がしたい」


「我々は構わぬ。ただ……」


「ただ?」


「この場を離れてからでは不味いだろうか……」


「確かに。奴らが引き返してこないとも限らないからね」


「我々は元々ソランの街へ向かう途中だったのだ。良ければ一緒に場所を移し、そちらで改めてゆっくり話すのはどうだろうか」


 と、タワードが指差す先は城塞都市の方角だった。


「私は構わないけど、そちらの馬車はどうするの?」


「残念だが馬車はもう使い物にならない。ここで捨てていくしかないだろう。幸いにも牽いていた馬は無事故、それを使ってミラオルテ様を街までお連れしようと考えている」


 頷いたノイノイは涼介に向き直ると、予定の変更を告げる。


「あの男の話を街で訊こうと思う」


山羊獣人カプロキスの調査はどうする?」


「一旦保留。今はこちら優先で」


「だな。あの男がこちらの人間といきなり会話出来てる時点で色々おかしいからな」


 涼介は了承の旨を伝え、続いて未だ目を回している男の頬を軽く叩けば、横っ面の刺激と鼓膜を震わす声に、男は朦朧としながらも目を醒ます。


「おい、大丈夫か?」


「……あ、ああ、って、お前誰だよっ!」


 頭を振って頭を覚醒させた後、最初に目を合わせたのは目の前の涼介だった。

 突然の見知らぬ相手に警戒心を露にするが、周囲の視線を自分に集まっているのに気付く。

 更に戦いが既に終わり、タワードが涼介たちに気を許している姿を認めると焦る必要がないことを察したようで、大きく安堵の吐息を漏らした。


「俺は涼介。そっちの小さいのがノイノイ。まず、名前を教えて貰ってもいいか?」


「の、登。祖父江登そぶえのぼるだ」


「訊かせて貰いたいことがある。勿論、隊長さんの許可は貰っている」


「今ここでか?」


「いや、今から行く街についてからで構わない」


「そうか……、わかった」


「立てるか?」


「ああ、なんとかな。大丈夫だ」


 そして涼介たちはタワード達が手際よく引き上げの準備を整えたのを確認すると、共に城塞都市へと引き返すのだった。



2023-06-21-03



「まず問おう」


 そう切り出したのはノイノイ。

 タワードに用意して貰った一室にて、彼女が祖父江登を簡素なテーブル越しの椅子に腰かけるようを勧め、向き合った直後のことだ。

 祖父江は挨拶も早々に、質問を投げかけてきたのが見た目幼女なことに戸惑いを隠せない。

 しかし、傍らに控える涼介が沈黙を守っていると、どうやら自分の話相手は涼介でなく、この幼く見える女性の方だと理解したようだった。


「ノボル、貴方はこの世界で生まれた人間ではないよね?」


 疑問形、だがその確信めいた物言いに祖父江は躊躇いながらも頷く。


「恐らくは日本から。違う?」


「……ああ、そうだ。何故、分かった?」


「髪の色、顔立ち、そして決定的なのは貴方の左手首に巻かれた腕時計。それはこの世界の技術ではなく、リョースケの故郷のモノだから」


 祖父江はその答えに、自分の腕時計へと視線を落としながら言葉を返す。


「てことはアンタたちも日本から来たのか?」


「その解釈で構わない。それで、この世界に来た経緯を覚えている?」


「ああ、家でゲームをしていた時、突然目の前が暗くなって気付いたらこっちに飛ばされてた。その後、頭の中に神様の声が聞こえてきて、俺には特別な力がある、この世界を救って欲しいって――」


 と、語る祖父江の言葉の中に、ノイノイは違和を覚える単語を聞き逃さなかった。


「神? そう名乗ったの? 姿は見た?」


「いや、名乗ってはないし、見てもないけど、頭に直接語り掛けるなんて芸当出来るのなんて他に想像できないしな。俺に特別な力があるのも見抜いてたし、そうなんじゃねえかなって」


「なるほど。因みにその特別な能力とやらはどんなものか、今、見せられる?」


「まあ、そんな自慢できるほどのもんじゃないけどな」


 そんな口ぶりとは裏腹に、自慢げに腕時計をした左腕の裾を捲り、ノイノイの眼前へと突き出すと、肌の色はそのままに、みるみる鱗状に変質させていく。


「ほう、肌の硬質化か」


「……あまり驚かないんだな」


「その程度なら予想の範疇」


「予想の範疇?」


 そう疑問符を浮かべる祖父江登に対し、ノイノイは澄まし顔で視線を向けたのは傍らの涼介の方だ。


「ん? えっと、俺の練式魔法フォースを見せればいいのか?」


「そう」


 涼介はノイノイの意を酌み、手の中に小さな氷の球を作って見せた。

 地球で生まれ育った者の身体は異世界に存在する魔力マナとの親和性が非常に高く、取り込むだけで著しく身体能力を向上させると同時に、放出する際様々な個性に変換して発現可能な不思議な性質を備えている。

 涼介たちが練式魔法アドベントフォースと呼ぶこれは、ノイノイたち『眺める者ウォッチャー』が使う術式魔法ソーサルコマンドとは全く異なる魔法体系で、扱える系統の幅は狭いものの、膨大な知識や複雑な技術を必要としないのが特徴である。

 どちらかと言えば拳法でいう「気」のイメージのが近いのだが、『眺める者ウォッチャー』たちにはピンとこなかったため、便宜上魔法と名付けてられているものだ。

 しかし、祖父江登は自分だけが特別だと思っていたのだろう。山羊獣人との闘いでは目を回し、涼介の能力を目にしていない彼は驚きに目を丸くしていた。


「ノボル。日本、いや、地球からこの世界に転移すれば、皆、大なり小なり特異な能力を扱えるようになるのだよ。体質的にね」


「そ、そうなのか……」


「とりあえずここに来た経緯は理解した。ということで、ノボルには日本に帰ってもらう」


「え? 日本に帰れるのか?」


「帰れる、という表現は正しくない。問答無用で帰ってもらう、選択の余地のない言わば強制送還」


「強制……、送還……。なんか俺が悪さしたみたいな扱いだな……」


「そう、この世界にとって貴方は不純物インプリティ。即ち居てはいけない存在。日本で例えるならブラックバスやアライグマなどの、特定外来種に該当する」


「俺が外来種……。厄介者扱いなわけか」


「もしノボルが我々と出会わず、この世界に定住するようなことになっていれば、恐らく地位向上や生活基盤の安定のために日本で得た知識に頼ると思う。それをされると我々は非常に困るのだよ」


「なんでだよ」


「我々の活動は、ありのままの異世界を観察し、記録すること。だから異文化に汚染されるのを嫌うのだよ。ノボルのように異世界に落ちた人間が出生地の知識、技術を広めれば、既存の文化は純度を失う。そうなると数千年の時を懸け、先祖代々続けてきた研究が僅か数年、下手をすれば数か月で水泡と化すからね」


「何だ、結局自己都合じゃねえか……」


「その解釈で構わない。文明がどのようにして起こり、技術がどのようにして進化していくのかを調査、研究するために我々は人生を捧げている。例えばこの地域で何らかの大きな革命が起きたとしても、彼らが発展する切欠になるのか、それとも衰退、滅亡の原因になるのか、歴史の一幕として興味を持ち、結果をただ記録するのみ。だからこの世界に留まり我々の活動の邪魔となるなら、容赦なく実力行使に踏み切るだろう」


 と、ノイノイははっきりと告げた。

 祖父江登は特異な力があることを自覚し、既に居場所を構築しつつある。

 もしこちらの世界に居心地の良さを感じていれば、少なからず未練を残すことになる。となれば後々面倒臭いことに繋がるのだが、それは涼介の杞憂に過ぎなかった。


「いや、すぐにでも帰ろう。寧ろ助かるぐらいだ」


「素直に同意してもらえたなら手間が省ける。ではここの住人にその旨を伝えてくるので、少し待っていて」


 ノイノイはそう伝えると席を立つ。


「俺が行こうか?」


 使いっ走りぐらい引き受けようという涼介の提案に、ノイノイは首を左右に振る。


「ノボルの件だけならそれでもいいけど、山羊獣人カプロキスの件がまだだからね。色々と関わる可能性があるから、軽くよしみを結んでおこうと思う」


 現地人との接触は匙加減が難しい。

 関わり合いを遠ざけた故に、警戒あるいは敵対されても活動に支障をきたす。かといって、あまり深入りすると異世界文明に悪影響を与えかねない。

 ノイノイは首を突っ込んでしまった現状から、自分が動いた方が良いとの判断なのだろう。

 出しゃばるつもりはない涼介は頷き、素直に待つことにした。

 ノイノイが退出すると、部屋には涼介と祖父江登が取り残されることになる。面識のない二人には気軽に話せる話題などあるはずもなく、訪れるのは静寂。

 暫し重々しい空気が滞留するが、それを先に打ち破ったのは祖父江の方だった。


「なあ、少し訊いてもいいか?」


 口にしたのは漠然とした疑問系。訊きたいことが色々あるのだろう。

 こんな時、涼介はあらかじめ用意されたセリフを告げるのみ。


「訊く内容によるとしか。俺は付き添いだからあまり権限がないんだ」


「この世界のこととかは……」


「残念だけど俺には答えられない。権限もだが、そもそもこの世界に詳しくない」


「そうか。なら仕方がないな。……君の能力は氷以外何か使えるのかい?」


「いや、氷の生成と、温度のコントロールぐらいだ。俺たちの間では練式魔法アドベントフォースと呼んでいるんだが、皆、扱えるのは大体一系統だけに限られるんじゃないかな」


「そっか……。肌を硬くするなんて、君に比べたら明らかにハズレ能力だよな。あーあ、もっと使えるものだったらなー。そうしたらカッコよく活躍出来たのに」


 なるほど。祖父江は漫画や小説のような異世界での活躍を夢見ていたらしい。しかし、理想と現実の差を知ったことから日本帰りに同意したのだろう。

 ただ、涼介は祖父江の能力が決してハズレだとは思わない。異世界での活動において最も重要なのは生存能力だと考えているからだ。

 加えて彼の練式魔法アドベントフォースは恐らく未開発段階。これから使い方を習熟すれば肌を硬くする以外の用途、例えば触れたものの硬質化、あるいは軟質化など、有用な使い方が見つかる可能性は極めて高い。

 しかし、涼介はそれを彼に伝えるつもりはない。折角その気になった帰国を反故にされても面倒臭いからだ。


「君は異世界で活躍しようとは思わないのか?」


 当たりの能力さえ得られれば、バラ色の異世界生活とでも考えているのだろうか。

 遠慮が段々となくなり、踏み込んだ質問をぶつける彼に不快感を覚えつつも、涼介はとりあえず答えることにした。


「いや、ないね。例え俺にその適性があったとしてもだ」


「なんでだよ」


「異世界での生活なんて、何かにつけて不便じゃないか」


「んー、まあ、確かに。飯は旨くないし、電気はねえし、トイレは不便だしのないない尽くしだもんな。暫く遊ぶ程度なら面白いかもしれんが……。ん? じゃあ、なんで今、ここにいるんだ?」


「俺はアンタと同じように異世界に迷い込んだ時、ノイノイに救われた。今はその恩を返すため彼女に協力しているんだよ」


「えっ? じゃあ、もしかして俺も……?」


「その心配はしなくていい。ノイノイは協力の強要ってのはしないから。素直に日本へ帰ってくれるだけで充分満足してくれるだろうさ」


 助けた代わりに従わせる。涼介の言葉からそんなニュアンスを捉えたのか。一抹の不安を抱いたようだったが、涼介の否定に安心したようだった。


「そうか。まあいいや。珍しい体験にはなったが、異世界はどうやら俺には合わなかった。これからは日本で大人しくしてるよ」


 丁度会話が区切りついたところで、ノイノイが計ったかのように部屋へと戻る。


「ノボルの身柄はこちらで引き取る旨は伝えてきたけど、先方も特に問題なさそうだったよ。揉めなかったのは幸いだね」


「戻るのはすぐか?」


「長居する意味はないしね。でもこの部屋から我々が突然居なくなるのは色々詮索を受けそうだから、一応街の外へは出ようと思う」


「りょーかい」


 夕暮れ過ぎ、衛兵からこの時間から城塞都市の外に出るのかと訝しがられる中、祖父江登を連れた二人は街を後にする。

 そして人目のつかない場所まで離れると、ノイノイの魔法で日本へと帰還した。




 こうして日本に無事帰還出来た祖父江登は非常に幸運だったと言えよう。

 異世界転移は極稀とはいえ起きている。当然、その大半が行方不明扱いとなる。

 捜索願いを出されたところで、異世界に飛ばれては警察も役に立たない。

 ノイノイたち『株式会社ブッシュ・ド・ノエル』も、捜索を主として活動しているわけではないため、すぐに発見されるケースは稀である。

 そのため、異世界に放り出された後に何かしらの事件、事故に巻き込まれ、人知れず命を落としてしまうことも珍しく無かった。

 涼介も過去異世界に飛ばされた時、身の危険を幾度となく経験した。幸い命こそ無事だったものの、現代日本で培った倫理感を徹底的に狂わされ、ノイノイの発見がもう少し遅れていれば日本での社会復帰は危うかったかもしれないほどだ。

 祖父江登個人に特別な感情はない。


 しかし、自分たち『株式会社ブッシュ・ド・ノエル』に不必要な労力を割かせないためにも、異世界には二度と関わらないで欲しいと切に願う。

 そして祖父江登に関するもう一つの気掛かり。

 彼が『第十七世界ワンセブン』に降り立った直後、彼の意識に語り掛けた存在だ。

 異世界転移は、大きく分けて二種類ある。

 一つ目が、時空の歪みが引き起こす、誰にも予期できぬ偶発的な事故。

 二つ目が、転移魔法、あるいは召喚魔法による意図的に異世界間の行き来を狙ったものだ。

 一つ目の可能性もなくはない。だが、今回は二つ目、他者の手によるものと見るのが妥当だろう。

 転移直後、召喚者以外では把握することが難しいタイミングで、祖父江登の意識に語り掛けるという、決定的な裏付けが被転移者の口から証言されているからだ。


 涼介の脳裏に浮かんだのは、とある存在。

 約半年前、涼介を異世界へと送り込み、苦しみを味わわせた連中だ。

 同一犯である可能性は極めて高いと思う。だが、確定的な証拠がない以上、まだ断定すべきではない。

 現にノイノイは何も語らず、調査続行の姿勢を崩していない。

 ならば涼介も彼女に倣い、とことん追求するまでと意志を固めるのだった。

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