ギフト
「
「いいよ、あたし、インドアだし。おうちで本を読んだり、映画を見たりするのが好きだし……楽しいもん。正直、スポーツも、記録を伸ばす競技も興味ないんだよね。体を動かすことは好きだけど……じゃあそれを活かしてトップを狙おうってつもりはないかな……」
「えぇ……そうなんだ……あーあ、身近な人が有名人になるかもって思ったのになー」
「そんなに甘くないでしょ。向いているからやってごらん、って勧められても、それが好きなことじゃなければ絶対に長続きしないし、成績だって伸びないよ。……それに、好きなことなら言われるまでもなく自分から始めているはずだし……人から勧められた時点で、他の人よりも遅れてるんだよ。それでも結果を出す人はいるけどね。そういう人こそ、好きで努力をして、上達した人なんじゃないかな……、努力をしないで天下を獲った人は、たぶん長続きはしないと思うんだよね……短い間の王様、なのかな?」
「それって……飽きたらすぐにやめちゃうから?」
「他分野に興味が移って、今の地位に未練もないんじゃないかな……? 好きでもない分野でトップになっても、その立ち位置に固執はしないとあたしは思うよ――」
インドア派なのに……。
なので、好きでもないのに「スポーツをやらないか」、と誘われる。スポーツでなくともダンスのような演技系に誘われることもある。記録を伸ばす競技系も同じく――、運動神経が良いというだけで……うんざりだ。
蜜姫は、汗水垂らして動くのを好むタイプではない……、勝負事なら座って駒を打っている方が好きである(それが好きなわけでも興味があるわけでもないが……どちらかと言えば、だ)。
運動神経が良いというだけで。
……望んでもいないのに。
向いているから、で、やらなくてはいけないことなのか?
「おかーさんは……毎日料理してるよね……」
「お母さんだからね……姫ちゃんとお父さんのご飯を作らないと。お父さんも作れるとは思うけど、どうやら私の作る料理の方が美味しいらしいの。まあ、本当なのか怪しいものだけど」
「美味しいよ!」
「そう? ありがと……じゃあピーマンとたまねぎも食べてほしいけどね」
「それはまた別のお話だよね?」
「お父さんに似た回避の仕方を覚えたわね……随分とまあ、似てきたなあ。まあ、それで回避できることなんて滅多にないから、逃げられると思わないことね」
「それはともかく」
「はいはい」
「毎日料理してて、美味しいって褒められてるなら、料理人になればいいじゃん。毎日毎日、パソコンをカタカタしてるだけのお仕事なんてしないで、キッチンに立つお仕事をすればいいのに……向いてるのに、しないの?」
「パソコンカタカタだけのお仕事じゃないけどね……、家事とお仕事はまた違うわよ。料理が上手で、味も美味しいと言われても、私のこの味は姫ちゃんとお父さんの舌に合わせて特化したものだから……他人に出してみれば、微妙って言われることの方が多いんじゃないかしら。万人が絶賛する、とは思えないわね……。
お店の料理は、誰にも文句を言わせないつもりで作っているわけだからね。美味しいのはもちろん、それ以上に、不味いと言われるようなものを作らないようにしているんだから。好みの問題はあるけど……、嫌いな食べ物を注文したりはしないでしょう? 注文をしてくれたその料理を好きな人の、万人を納得させる料理を毎回作らないといけないの……どんなコンディションでもね。家事ができるからと言って、料理人としてキッチンに立てるわけじゃないわ」
「……やっぱり……そうだよね」
「やっぱり? だよね? 分かってて聞いたの? ……悩みごとでもできた? それとも、今のでもう解決できた?」
「まあ……うん、解決かな。運動神経が良いからってさ、いざ勧められるままにスポーツをやってみて、当然のようにチームのレギュラーを取れるわけじゃないよね――みんなが簡単に言うんだもん、才能があるんだからやればいいのにってさ。好きじゃない時点で、才能はないようなものだよ――だからどんなに下手でも、好きでいる時点で才能はあるってことだと思うんだよ――」
「あー、まあそうね。運動神経が良くても、それでスポーツで活躍できるかどうかはまた別の話だし、新記録をすぐに出せるわけもない……好きでなければ、実力はすぐに天井に当たってしまうわね。好きなら、その天井も破ってさらに記録を伸ばせるんだと思うけど……、偽物の天才は、結構早く追い抜かれてしまうものよ。言われるのは今だけじゃない? 周りの頭が低いから、一つ分抜けた姫ちゃんが飛び抜けた才能に見えるだけで、これが年を重ねれば、そんな誤解もされなくなると思うわ……。ただね、既に持っている姫ちゃんが、『トップを獲りやすい』環境であることは確かよ。好きなだけで、才能がない分野でトップを獲ることは難しいと思うわ……でも、そっちの方が燃えるのかしら?」
「好きじゃない分野で、周りより先にリードしている状態から始まる競争よりは……ね」
「決めるのは姫ちゃんだから。……夢中になれる、トップを獲りたいと思える好きなことが見つかるといいわね」
…了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます