「アンチ・プレゼント」


「うちの会社を辞めるだと……? こっちは、お前が心身ともにボロボロの状況の時に雇い、一人前になるまで育て上げたんだぞ……? 大きな恩があるはずだ。なのにっ、会社が傾き、ピンチになれば恩も忘れてすぐに辞める……だと!? ふざけるな!! 恩を仇で返すつもりか!!」


「そんなつもりはないですよ……、僕は恩を仇で返すつもりは一切ありませんから」


「一切ない? お前はそうかもしれんが、この状況で会社を辞めることは、こっちからすれば仇で返されたとしか思えないんだよ……、これが仇でなければなんだ? お前は、育ての親を見捨てて知らん顔をし、無関係を貫こうとしているようにしか見えんな。これをなんと言う……恩を仇で返しているとしか言えないだろう……言い訳があるなら聞こうじゃないか」


「恩を仇で返すのではなく……そもそも、恩を恩で返す、恩を仇で返す――の話ではないんですよ。そこは一旦、他のところに置いておいてください。関係ない話ですから。

 単純な話ではありますが……、会社がピンチになり、社員の力が必要なのは分かりました……僕だって手伝いをしていますけど、さすがに休みなく、全力疾走で働き続けるのは無理があります。体力の限界もありますからね。精神的にもきつかったですし……それでも社長は、社員を働かせましたよね? こっちが恩を感じて言い返せないことをいいことに。

 ――こっちからすれば、会社から攻撃されているようなものなんですよ……ですので、恩でも仇でもなく、これは攻撃に攻撃をして、相殺しているようなものなんです。僕たちに、会社を潰すつもりも、社長を裏切るつもりもありません……、攻撃された分だけ、攻撃をして『なかったこと』にしようとしているだけで――結果的に、辞める、という判断にはなりましたけれど、別の形で恩を返すつもりではいますので――」


 そこは安心してください、と。


 彼も、恩を恩で返すつもりはあったのだ。


「ま、待て……私は許さんぞ……こんな状況で辞めるのは、お前がなんと言おうとこれは恩を仇で返しているようなものだからな!!」


「はぁ……では、もうそれでいいです。恩を仇で返したとしましょう……、なら、仇で返された理由がなんなのか、振り返ってみたらどうでしょう。恩を返すつもりだった社員からその気を奪ったのは、他でもない、社長本人なんですよ――」




 …了

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