「マスターオブセレモニー」


「はいっ、転校生の藻口もぐちさんです……みなさん、仲良くしてくださいね」

「お、お願いします…」


「では、藻口さんの座席は……ごめんなさいね、教室の後ろまで人がいっぱいで……まるで昭和の子だくさんみたいな教室だけど、単純に複数の地区から集まっているだけで、少子化が改善されたわけじゃないのよねえ――」


「はぁ」


「じゃあこうしましょうっ、ちょっと黒板は見にくいかもしれないけど、教卓の横に――そうね、こうして、黒板とみんなの顔が見えるように……ちょいと斜めで……――ひとまず座席はここにしましょう。あとでちゃんと、みんなと同じような位置に座席を作っておくから、今日はここでがまんしてくれる?」


「はい、分かりました」



  ―――黒板―――

     先生    藻

 生徒 生徒 生徒 生徒

 生徒 生徒 生徒 生徒

 生徒 生徒 生徒 生徒

 生徒 生徒 生徒 生徒

 生徒 生徒 生徒 生徒

 生徒 生徒 生徒 生徒

 壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁



「(この位置……、みんなの視線が突き刺さって、やりづらい…)」

「藻口さん」


「え? あ、えっと――」

「あとで自己紹介するね」


「うん……」

「教科書ないでしょ? わたしの使う? いいよ、わたし、頭いいから教科書いらないの」

「そうなんだ……」

「だからはい、貸してあげるねっ」


「ありがとう」


(教科書に名前……黒住くろずみさん? でも、本当にこの子の教科書か分からないし)




「さて、それでは授業を始めましょうか――」

「(ねえねえ、藻口さん、なんだかMCみたいだね!)」


「……席の場所だけで言ってるでしょ……司会者の真似事なんかできないよ」


「真似ならできるでしょ。どんな実力者も、最初は真似から入ったんだから」



 ――なんてことが、小学生の時にあった。

 この経験を経て、僕は司会者になったのだった。


 ……転校初日、特別な席から見た、みんなを一望できる景色が忘れられなくて。

 ずっと見ていたかった、という夢が、こうして叶ったのだ――


 だから僕は、今日も舞台に立つ。


 決して真ん中ではない、中心ではない――。

 メインを際立たせる影として、進行をする。




 …了

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