クーデター表/裏
理不尽で学生の自由を奪う教師陣のやり方に不満を持った学生が、暴力によって『自由』の権利を取り返そうとする――つまりクーデターが起ころうとしていた。
その学生たちの上に立つのは生徒会だ。
生徒会長――『彼女』は、クーデターの首謀者として、教師が集まる円卓に呼び出されていた。
「首尾はどうだい、生徒会長」
「ええ、問題はありません。クーデターは私の手で掌握できています」
「よろしい」
教師陣は、学生たちのクーデターを脅威とは思っていなかった。
たかが学生になにができる、と下に見ているわけではない。
学生だろうと、数が集まれば脅威になることは分かっている。大人なのだ、見下し、軽んじては、足をすくわれることは重々承知である。ゆえに脅威を理解し、だからこそ事前に掌握し、操作しようとした――生徒会長を抱え込むことで、クーデターの実質のリーダーを味方にしてしまえば、内情を把握できる。
生徒会長を動かすことで、クーデターを操作するように。
なにをしでかすか分からないなら、なにをするのか教師陣で決めてしまえば、怖くもなんともない。
「今後のことを話そうか。結果的に、クーデターは終息させるつもりだが、学生たちには良い夢を見させておき、そこから絶望に叩き落とした方が、学生たちも二度目を企むこともないだろう……。力の差をここで教えておかないとならないからな――教師には、大人には逆らわない方がいいということをな」
「……あの、先生方」
と、顎に手を添え悪巧みをする教師陣へ、生徒会長が手を挙げて訊ねた。
「なんだね」
「あの……そもそもクーデター自体、学生は考えてはいませんでした……、クーデターの意味も分かっていない子もちらほらいましたし……。先生方がクーデターを学ばせ、不満を自覚させ、暴力で権利を奪い取るという手段を与えたのですよね……? 対処する必要がない事件をわざわざ起こして、それに対処する……マッチポンプをしたいのは分かりますが、する理由が分かりません。先生方が動かなければ、学生は今まで通りに大人の言いなりだったのではないですか?」
「かもしれん。しかし、飛び抜けた才能が先導すれば同じことが起こるだろう。その時、初めての暴動では、我々も委縮してしまうかもしれんからな……つまりこれは、我々のための防災訓練なのだ」
「訓練……」
「本当に、本気のクーデターが起こった場合、我々はどう動けばいいのかというシミュレーションだ……、筋書き通りとは言え、実際の空気に飲まれてしまう時もあったからな――それをここで体験できたのは良かったことだ」
「……しかし同時に、クーデターのやり方を、学生が知ってしまったのではないですか? このままでなくとも、アレンジをして、後世がクーデターを起こすかもしれません……」
「種類が違うだけで、大元の柱までが変わるわけではない。その柱さえ分かっていれば、我々は落ち着いて対処ができる。我々教師は楽観視をしていないし、学生の暴動に屈する大人ではない――。次の指令を言い渡そう、生徒会長」
「……はい、なんなりと」
そして、生徒会長は教師に言われた通り、筋書きに引っ張られ、学生を先導する。
結果は見えている。
これは負け戦だ。それでも生徒会長が先導するのは、自分は安全地帯にいることを理解しているからだ。
自分はスパイである……、だから自分だけは甘い蜜を吸えるのだと。
だけど……、
「なあ、生徒会長。アンタ……教師と繋がっているな?」
……どうしてばれた。
学生たちの敵意が、教師から生徒会長へ向けられ――
「まさか……ッ、あいつら……ッッ!!」
尻尾を切られた。
充分なデータは取れたから、お役御免とばかりに彼女は処分されたのだ。
裏切り者というレッテルが貼られ、彼女は学生の暴力に飲まれていく……。
こうして彼女は死んだ。表舞台から姿を消して…………
「――さて、これで自由に動けるわね」
生徒会長は水面下で動いていた学生たちと合流する。
彼、彼女たちは暴動に巻き込まれて死亡扱いされている学生だ。表舞台にいない彼、彼女たちは、立場も人目も気にせずに動き回れる。暴力以上の行為を起こしても、罪には問われない――。
「表のクーデターは囮……、本命はこっちよ――裏舞台から、ぶっ壊してやる」
教師も知らない、予測不能が。
彼らの足下を崩すのだ。
…了
お題「生徒会クーデター」
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