第七話 日記⑥

ほんの些細ささいなことだった。

あまりにも小さなことで覚えていない。

娘がわがままを言ったときだっただろうか?

ダメだと分かっていても手が勝手に動いて

いた。

娘を思いっきり叩いてしまったのだ。

泣いている娘を見て色んな感情が湧き上がってきた。

やってしまったという後悔、今まで我慢していたものが解放された爽快感、泣かせてしまった、もっと泣け、心の中は目まぐるしく変わっていく。

 でも、時間がつと後悔の念のほうが強くなって手を上げたことを反省し、泣きながら娘に謝っていた。


それなのに…


私はそれから自分をおさえることができなくなってしまい、何度もカッとなっては手を上げた。

それはどんどんエスカレートしていってしまい二発、三発と叩く回数も叩く強さも増していった。

最初は、“またやってしまった”と泣きながら謝り、もうしないからと強く誓っていたのだが、回を重ねるごとにその気持ちも薄れていきどこかへ消えていった。

 

”私の中の ”何か“ が壊れてしまった“


そして、私は、散らかった部屋の中に落ちている子供用のプラスチックでできた大きめの棒状の積み木を手に持っている。

それを娘の足めがけて何度も何度も振り下ろした。

娘は、

『痛い!痛い!痛い!』

と必死に叩かれている方の足をかばおうと丸まっている。

それでも容赦ない暴力に今まで聞いたこともない泣き声をあげはじめた。

その泣き方に腹が立ち、私は積み木を投げ捨て泣く娘を放置してその場をあとにした。



旦那がいる間、私は普通の母親のふりを

した。

いない時間帯は、娘を無視するようになった。

お腹が空いたと言っても食事は与えず、

もしくはこれでも食べとけ!と口の中へ無理やりねじ込んだ。

無理に食べ物を口の中に入れられたせいで娘は嘔吐してしまった。

しくしくと泣く娘を見て

「何してんの?!なんで吐いたの!!」

と怒鳴りつけたが怒りはおさまらず、

「誰が掃除すると思ってるの?!」

「お前は頭が悪いね」

「本当にわがままでどうしようもない」

ののしり続けた。

その間、娘は「ごめんなさい、ごめんなさい……」とひたすら謝り続けていた。

罪悪感はなかったと思う。

ただ、ただ、自由になりたくて、

昔みたいに時間を気にせずショッピングしたり、友達とランチをしたり、映画を見たりと自分だけの時間が欲しくて、でも、あなたがいるからそれができない。

その思いでいっぱいだったと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る