第8話  香澄side ①

 あの日、私は美波のお家に遊びに行っていた。瑠花ちゃんと早百合ちゃんは用事があって来てなかったんだけど、美波は人見知りで、瑠花ちゃんたちとはあんまり話せなかったからそれでもいいかなって思ってたの。


 それで、美波と遊んで私が帰る時間になったから美波が玄関まで見送りに来てくれたんだけど、美波がつまずいて階段から落ちたの。一瞬、なにが起きたのかわからなかった。でも、美波の頭から血が出てるのを見て我にかえったの。そこから何度も呼びかけたんだけど、美波が目を開けることはなかった。


 私はその日から毎日、美波のお家に様子を見に行くようになった。でも、美波が目を覚ます気配はなかった。


「香澄、きっと美波さんはすぐに目を覚ましますわ」


「そうですよ。あんなに香澄のことが好きだったんですから、香澄の悲しむようなことはしませんよ」


「うん。そうだよね。すぐに目を覚ますよね」


 でも、美波は目を覚まさなかった。


 いつものように美波のお家に行くと、なんだか少し家の人たちが騒がしかった。


「今日はいつもより騒がしいですわね」


「そうだね。何かあったのかな?」


 あっ、秋さんだ。秋さんは美波のお家のメイドさんで、よく美波のお家にお邪魔してるから顔見知りなの。


「あれっ、香澄さんたち今日も来てくださったんですね」


「はい。あの、今日は何かあったんですか?」


「あっそうなんです。先程、お嬢様の意識が戻られたんです」


「本当ですか!あの、美波は大丈夫ですか?」


「私が見た限りでは大丈夫そうでしたよ」


「良かった、あの、美波に会うことってできますか?」


「お嬢様に聞いてみますね」


「はい!お願いします」


 良かった!美波、意識が戻ったんだ。本当に、本当に良かった!


「香澄、良かったですね。美波さんの意識が戻られて」 


「まあ、香澄を泣かせた美波さんには一言いってやりたいですけど、今回ばかりは許してあげますわ」


 あのあと、美波と久しぶりに話してとっても楽しかった。でも、美波がまた倒れた時は驚いちゃった。美波はもう大丈夫だって言ってたけど、まだ少し心配なんだよね。


 意識が戻ってから美波は少し変わった。前は私とずっと一緒にいてくれたのに、人見知りが治ったみたいで瑠花ちゃんと早百合ちゃんとも遊ぶようになった。なんだか少しもやもやするの。この気持ちはいったい何なんだろう。


 





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