第2話 突然現れた少女
地べたに口をつけているゴブリン達
そして呆れたような1人の女性。
「助けてあげたけど……魔力が感じられないわね」
「あなたは……誰ですか?」
金髪のショートカットの見ず知らずの女性に恐る恐る訊いてみる、少女は少しうつろな目をしてこう言った。
『私の名前?アキよ、名字なんてものは無いわ。ただの戦争孤児』
元々農民生まれのアキさんは戦争で両親を亡くしてしまったようで、それからというもの、各地を転々とし日銭を稼ぎいわば『放浪者』なんだと本人は言っている。
「アキさんはどうして名字が無いんですか?」
「生まれがただの農民だから、身分の違いよ」
俺は自分の身の上のことについて話始めた、出身、名前、年齢。そしてこの抜けない剣のことも。
「16歳、私と同じね。まあそのニホン?って国のことは知らないけど仲良くできそう」
「はい、僕もそう思います」
「だけど一つ私が欲しいかったものがやっと見つかった」
「はい?」
俺は怪訝な顔を彼女に見せている内に彼女は俺が握っていた剣を指して言った。
「その剣、もらっていいかしら。少し貸してくれない?」
「別に良いですけど」
俺は彼女に剣を渡した、すると彼女も剣を鞘から抜こうとするが、当然抜けない。
「へーやっぱこれね」
「?」
「これただの剣じゃないわ、魔剣とかいう類のやつね」
「!?」
どうやら彼女によればここは俺にとっての異世界であり、そしてこの魔剣を巡って戦争が起きていたらしい、その戦争に巻き込まれたのがアキの両親だったのだ。
「こんなものさえ無ければっ!!」
彼女は剣を思いっきり地面に叩きつける、剣の衝撃は地面に吸収され『カランカラン』と転がる音が鳴る。
「こんな!こんな!剣一本で!」
剣を踏みつけ、叩きつけ、それでも剣鞘には傷1つ付かない。
不気味だ
それが俺が思ったこと。
まるで呪われているかとでも言うような剣は、なんの意思も持たずただそこに在った。
俺は異世界の人間ですら無いが、この剣の異常さは明らかに感じとれた。
「はぁはぁはぁ」
ひと通り彼女は暴れると、剣を拾い俺に返した。
「なんかごめんなさい、それはどこで手に入れたの?」
「手に入れたというか、じいちゃんの形見なんだけど」
「!?ほんっとうにごめんなさい」
彼女は驚いた素振りを見せると、直ぐに頭を下げた。
「謝らなくていいですよ、悲しみは分かりますから」
「……」
「それにしても、この剣やけに不気味過ぎじゃ無いですかね。さっきからいろいろしてるのに傷一つ付かないって」
俺は魔剣を手に取り、剣鞘を触るがやはり傷はついていない。
「魔剣は再生能力もあるのね、まるで生きてるみたい」
冷静になった彼女は俺から剣を取り分析を始める。
「この抜けない剣には理由があるのかしら。それと、この鞘の異常なまでの硬さ。おまけにこの強度の割にこんなに軽いなんて、不思議すぎるわ」
魔剣をなんとか抜こうと試みてはいるものの、やはり抜けない。
何かが、何かが足りないのだ。
「魔剣。あなた、管理には気をつけなさいよ」
「ああ」
異世界の均衡を変えるとも言われる魔剣をただの少年が持っているとバレたらどんなもんかたまったもんじゃない、軍を送られて殺されたりするかも。
「ちゃんと、袋に入れときなさい」
彼女は竹刀袋のような剣に丁度いいサイズの細長い袋を取り出すと、その剣を袋に入れた。
「はい、もう離しちゃ駄目だからね」
「分かってる」
彼女から剣が入った袋を受け取ると、彼女がこう言った。
「私は町の方に行くけどあなたは?」
「じゃあ俺も着いていく」
その次の瞬間だった。
『やっと見つけたぜ、溢れ出る魔力がまるで違えな』
前に黒色のコートを羽織った赤髪の男が現れた、男は剣で武装している。
「逃げてっ!」
突然彼女から背中を押されたかと思うと、男が瞬間移動?のようなものを行い俺の眼前に来た。
『
彼女が男に礫のようなものを投げる。
だが男はそれを手であしらうようにして避ける。
「帰りなさい、じゃないと私の呪術が炸裂するわよ」
『呪術か、面白い。拝見させていただこうじゃないか』
俺はとりあえず、男からいったん距離を取り、彼女が俺を庇うようにして前から出てきた。
「呪術!濡れ血痰」
すると彼女は自らの腕をポケットから出したナイフで傷つけると、そこから出血した血が血痰のようになり相手に勢いよく飛んだ。
しかし、咄嗟に男が張った結界に塞がれる。
『駄目だな、大体濡れ血痰は対人には用いないって習わなかったのか?対人呪術はこうあるべきだ』
すると男は持っていた剣で自らの心臓を刺したと思うと、またすぐに抜き、剣には男の血が纏っていた。
『呪術!血纏』
男の剣に纏った血が爆ぜると、辺りの草は衝撃波で激しく揺れた。
『まずは一撃』
男は彼女に対し、躊躇なく剣を振り下ろす。
彼女も咄嗟に構えた剣で防ぎ、無機質な金属音が辺りに響く。
「あんた、躊躇がないね。さては沢山殺してきたんでしょうね」
『さあな。まあさっさとそいつが持ってる剣寄こしな』
彼女は剣を弾き、男は大勢を崩す。
「剣術だったら、私の方が上みたいね」
『まあな、剣術だったら』
気づくのが遅かった。
「アキさん!上!」
『もう遅い』
すると上から降ってきた血の雨に彼女は晒された。
彼女は雨を浴びた瞬間に倒れた。
『浴びた相手は誰であろうと死ぬ呪術、血雨。これは奇襲に有効だ、覚えておくといい』
俺は袋から剣を無言で取り出す。
『やっとやる気になったか、まあお前が死ぬのも時間の問題だけどな』
「俺は死なない」
強がりだ。
呪術?とか使える異世界人とただの現代社会に生きている人間が闘ったらどうなるか?そんなのは容易く想像ができる。
きっとまた剣鞘は抜けないだろう。
だが俺は少しの剣鞘が開くという確率を信じ、剣鞘を抜くのを試みる。
「え?」
剣鞘は俺の手から滑り落ち、俺の足元に転がった。
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