第五章 教師/刑事/血族 ~3~
3
僕や
・・・・・・本当に冷や冷やした。
前日に
ただ、藍乃夫妻には効果的だったらしい。英雄の家へ赴き二人と話したとき、二人は木海月刑事と面識があることを僕に話していた。だからこそ、今目の前にいる人が誰なのか理解している。だからこそ二人は唖然と――まてよ。
たしか木海月刑事は、父さん母さんって・・・・・・。
「流石だよ
一通り写真を取り終えたのか、スマホをポケットにしまい僕を見る。
「ええ、まあ。死んでないだけマシです」
「マシって状態じゃあないだろ。けど安心してくれ、僕が来た」
「君はたしか、物語特別対策部捜査第一課の、
「一度会っただけなのに、よく覚えてらっしゃる。流石父さん」
白白は明らかに参っている。
突如として現れた自分のことを父さんと呼ぶ、刑事の乱入に。
僕も何が何だかわからず、藍乃夫妻同様に呆気にとられる。
木海月刑事は周りを一瞥して、僕の傍へと近づく。
ポケットから折り畳みナイフを取り出すと、僕のロープを切り、これでようやく僕の身体は自由となった。
「もっと早く来れたんじゃないですか?」
「僕はただの刑事じゃないんだよ? 立場もあるし天宮をしょっぴくための、一般警察への報告と工作もしなくちゃいけない。あの場にいた二人を含めてね」
「それでも、もっと早く来てほしかったです」
「でも君は生きている」
木海月刑事は僕の肩に手を乗せると、親指を立てグッジョブした。
「兎音くんがこうして時間を稼いでくれたおかげで、君が死ぬ前に君を僕が助け出すことができた」
「そうですか・・・・・・よかった」
「天宮も逃げ出すことはできないだろうし、よく頑張った、相棒」
ホッとした。
いよいよ終わりかと思ったが、九死に一生を得るとはまさにこのことだ。
僕は一息つくと、肩の力を抜き安堵する。
「おい。勝手に話を進めるな。我々の問いの答えろ、木海月真実」
おおよそ平静ではない白白は急くように言う。
「何故お前がここにいる、何故水扇兎音がここにいるとわかった、どうやってここへ入った――何故、我々の邪魔をする」
肩を落とした木海月刑事は、腕時計で時間を確認したのち、白白を視る。
「猶予はまだありますが・・・・・・、端的に答えましょう」
訝しげな表情を浮かべる白白に、木海月刑事は言った。
「僕がここへ来たのは水扇兎音くんを助けるため。そして、ここに兎音くんがいるとわかったのは、兎音くんの読みが冴えていたおかげだ。因みに、僕がこの家に侵入した方法は簡単だよ。二階のバルコニーから不法侵入した。最後に、僕が邪魔をする理由は親の非行を止めるという、子としての責務を全うするためだよ。父さん」
「父さんと言うな。我々は君の父親になった覚えはない」
「いーや。貴方は僕の――俺の父さんで、貴女は母さんだ。疑いの余地など一ミリもない」
そう話した木海月刑事は、自身の首根っこへ腕を突っ込む。
僕は木海月刑事が何をしているのかわからず、ただただ行われている光景を眺めた。
木海月刑事は突っ込んだ腕を引き出すと、肌色の何かが取れた。一瞬自分の皮膚を引きちぎったのかと思ったが、そうじゃなかった。さながらスパイ映画のように、顔に張り付けたマスクを乱雑に脱ぎ捨て――否、破り捨てる。床へと投げ捨てられたマスクは、木海月刑事と同じような輪郭、肌つやをしているが、そこには生気がない。
僕は今まで木海月刑事だった人を見る。
そのマスクの下は、意外な人物だった。
僕の担任の先生で、僕の恩師で、その正体は木海月刑事だった。
「父さん母さんが俺のことを忘れていたとしても、俺は忘れちゃいないさ」
「い、いや。知らないわ。あなたも、あなたも知らないわよね?」
巴メは動揺しながら、白白の元まで駆け寄る。
双方、そして僕も困惑を隠すことが難しい。
それほどまでに、状況が一転二転している。
「木海月刑事は――乃手坂先生? だったんですか」
「まあ兎音くんが困惑するのも無理はない。まっ、それは追々説明するとして、まずは目の前の問題を片付けよう」
木海月――もとい、乃手坂先生は僕から視線を外し、二人を視る。
「我々は君を知らない。君は誰なんだ?」
「そうか、この姿の俺とは初対面だったか」
少しだけ乃手坂先生は悲しそうな――寂しそうな顔を浮かべた。
と、思ったらすぐに表情は変わり、当たり障りのない微笑みを見せる。
「初めまして、父さん母さん。私立英雄譚高等学校普通科二年四組担任、〈役学〉を教えています、乃手坂白雲です。そして――」
先ほどまでの緩んだ表情を崩し、乃手坂先生は睨みを利かせる。
「
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