第三章  元・物語主人公/藍乃夫妻 ~2ー4~


「・・・・・・タメになる話で、もっとお話を聞きたいところですけど、そろそろ時間が」


 僕は左側の壁に掛けてある時計を指さしする。

 天宮あまみやは腕時計で時間を確認すると、静かに立ち上がった。


「もうこんな時間か。随分と話し込んでしまった」

「いえいえ、そんな」


 僕も立ち上がると、椅子を反対側の机へ戻し、出口付近に待機する。


「私も存外、有意義な時間を過ごすことができた」

 天宮はそう言うと、ディスクの上から置物をひとつ取った。

「感謝のお礼だ、受け取ってくれたまえ。英雄えいゆう少女の遺言を私に伝えてくれた、そのお礼だ」


 遠慮しておこうと思ったが、素直に頂いた方が野暮ったくない。

 僕は天宮をアニメチックにした、サイン入りのねんどろいどを受け取った。


「これは初回限定品の、世界に三個しか存在しない特別品だ」

「お、おぉ。ありがとうございます」


 なんだろう。凄く重い品を受け取ったような気がする。一旦、限定の特別品だということを忘れよう。

 じゃないと価値そのものに滅入ってしまう。


「あ、そうそう」

「・・・・・・? どうしました」

「英雄少女は――あの遺言の他に、何か話していなかったのかい」


 天宮は優雅な立ち振る舞いで訊ねた。

 僕は眉をひそめて、考えるふりをする。そして、思い出したかのような演技をして、口角を上げ微笑み、答える。


「ありました。藍乃あおのからの遺言」

「ほほう。して、それは?」


 僕はそれとなく、だが、心を込めつつ感情を添えて――微笑み言った。


「『あの日先生があたしにしたこと、忘れません。あのことだけは、心の内の秘め事です』」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る