第二章  英譚高校・学生/物語対策部・刑事 ~3~



 喫茶店でのその後についてだが、

 コーヒー代は木海月きくらげ刑事の奢りということで、感謝しつつありがたくコーヒーをいただいた。ブラックは初めて飲むが、やはり想像通り苦い。苦いが、その奥にはしっかりとコクと深みがあり、あとを引かないスッキリとした味わいを堪能した。まるでカレーとかシチューの食レポをしているようだが、〈スッキリとした味わい〉なんてカレーにもシチューにもないのだから(あるかもしれないけど)、この言葉が出てきただけでも評価してもらいたい。ただ、やはり苦い。マスターは邪道と言っていたけど、せっかく用意してもらったのだから、角砂糖とミルクをこれでもかと入れ、飲みやすくなるまで甘くした。


 肝心の木海月刑事と交わした会話は、

 木海月刑事らは、捜査が打ち切られたあとも捜査を続け、藍乃あおのに関わるすべての人に聞き込み調査を行い、何か不審な点はなかったのか探っていたらしい。しかし主人公が自殺に至った原因はおろか、精神的に追い詰められていた、というような様子は窺えなかったとのこと。いつも通りの元気で努力家で溌剌とした学生だった、という証言しか得られなかった。頼りになるのは、僕が話した屋上でのやり取り以外材料はなかったらしい。ただ、定期的に行われていた主人公に対して行うメンタルチェックでも、〈問題なし〉と診断されていた主人公が肉親ならいざ知らず、たった一人の人間に心を開くのは不自然だという意見もあったらしい。いじめ傾向にある子が、本当に信用している友や家族意外の者に心を開かないのは理解できるが、元気で溌剌とした主人公が何故、彼(僕)以外ましてや家族にも悩みを打ち明けなかったのか、彼(僕)のでっち上げではないか、と結論づける人も多少なりとも一定数存在していたと話した。

 

 少し話しがズレた。

 その後の調査で、ここ白雪通りで主人公である藍乃を見かけたかもしれない。という人物が出てきた。その人物は藍乃の近所に住むおばさんで、名前は国枝春美くにえだはるみ。国枝は当時、偶然藍乃を見かけ話しかけようと近づいたらしいが、召し物や雰囲気が普段の藍乃とはかけ離れた様相だったため、見間違えだと思ったらしい。しかし改めて思い返してみれば、佇まいや所作は藍乃本人だったかもしれない、と。多分本人で間違いないんじゃないか、と木海月刑事に話したらしい。それが、僕が高校一年生の冬。珍しく大雪警報が出ていた日だったらしい。そこから防犯カメラのチェックを行い、各店舗への聞き込みを行い、限りなく藍乃に近しい人物がいたところが判明したらしい。それも藍乃だけではない。藍乃以外のもう一人の人物。名前は春雨辰次はるさめたつじ。そう名乗る人物を調査した結果、偽名であることが判明した。勿論、何故か藍乃も偽名を使っていたらしい。その偽名を使ってまで行った場所は――ラブホテル。この場所へ行くということは、確実に偽名の男と行為を行っているということ。木海月刑事らのさらなる調査の結果、偽名の男の真名が判明した。藍乃とヤったであろう人物の名は、〈天宮剣一あまみやけんいち〉。前・主人公であり、藍乃に直接指導を行う演技指導の特別教師。


 木海月刑事に依頼された内容は、

 天宮剣一と藍乃英雄はどのような関係だったのか、どうしてあの日ラブホテルにいたのか。警視庁と主人公の死にどのような因果関係があるのか。元・主人公だった者として、知っていることを洗いざらい天宮剣一から聞き出してほしいというもの。

『天宮剣一へ直接聞き込みをすればいいのでは?』

 木海月刑事に問いてみたが、木海月刑事は苦い顔をして顔を横に振った。

 どうやら実際に聞き込みに行ったらしいが、

『捜査打ち切りと聞きましたが、あれは嘘だったということですか?』

 と返され、自分が疑われているという疑惑、そして警察への不信感を不確定ながら抱いた可能性がが高く、その後、いくらアプローチしても知らぬ存ぜぬを突き通し話にならないらしい。もし話したとしても、主人公時代で培ったコネを使い、内部から自分の証言をなかったことにする可能性があるとのこと。だからこそ、この一件に関しては秘密裏に行い、内部の人間に証拠を握りつぶされないよう、第三者である僕が天宮剣一の口から自白させることが重要らしい。上手くいけば天宮剣一が裏で手を回す前に、ケリをつけることができる。


 木海月刑事はこのように説明してくれた。しかしこの文言を問い聞き出すのは至難の業、難易度は高い。難易度は間違いなくベリーハード。上手くいくかどうか・・・・・・。


 そして僕からの条件は、

 木海月刑事が掴んでいる情報はどのような代物なのか。持っている情報の中身は流石に教えてもらえなかったが、藍乃の自宅から見つかった証拠や情報を、その報酬として特別に共有することを約束してくれた。しかし、その証拠や情報が藍乃の死の真相に近づくことができるのか、信用してないとは言わないが疑問を抱いた。『本当に自殺した真実を知ることができるのか』と訊ねてみると、木海月刑事は頷き肯定した。


「保障する。なんせこれは、託されたモノだ」

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