現在

「————というわけだ。だからね、到着時刻はあなたとそんなに変わらないんだよ」

「睦月、おつかれ、さま…本当に、おつかれさま」

「何が」

 きょとん、とされた。

「こんな酷いこと、されたのだね…辛かったね…」

「あ〜…でも、今回はちゃんとした暴力、だったからまだマシ。気持ちが楽だったよ」

 楽、とは——?

「いやぁ、物理攻撃は気持ちの整理がしやすいよ?言葉の攻撃はそうともいかないし」

「はぁ…」

 この娘は感覚が大きくズレている。まともな環境じゃないところで暮らしているからまぁ、当然の結果なのだろうけどさ。

「つらい、とは思わないのかい?」

「私の中に『つらい』という概念がないと思うんだ」

 淋しそうに笑って続けた。

「あんな環境が普通だから、葵の家に初めて行った日はだから、驚いたんだ。親子が対等な立場で話していたから」

「うん、いまの日本の一般家庭は親子対等だよ。タメだし、嫌なことは嫌だと言える」

 睦月は笑った。

「はっ…うちじゃあ、あり得ない話だ。反論なんてしてみろ、物が飛んでくるか、罵詈雑言だよ」

 睦月の唇が少し、震えていた。

「なんで、ストレス発散の的にされるんだろうな…私は、サンドバッグじゃない」

 睦月は涙を流した。自分の言葉で自分を苦しめてるみたいに。

「睦月、言うな。もうこれ以上、自分の言葉で自分を傷つけるな…もうやめろ。君が傷つく一方だ」

 睦月は指で涙を拭った。

「聴いてくれてありがとう」

「礼には及ばないよ」

 僕は睦月を撫でた。

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こんな家、「普通」なわけがない 夜桜夕凪 @Yamamoto_yozakura

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