お留守番
ようやく真守さんに撫でてもらえた。
未だに私の頭と耳には彼の優しい温もりが残っている。
「ふふっ……」
最初は恥ずかしかったけれど、今はとても幸せだ。
お姉様が眠った後にまた撫でてもらおう。
「何か良いことあった~?」
「えっ……!?」
「嬉しそうだからさぁ……」
お気に入りの漫画を片手に欠伸を漏らすお姉様。
伝えるべきだろうか。真守さんに撫でられたことを。
いや、伝えるべきだ。何故なら私達は姉妹なのだから。
「あの……真守さんが撫でてくれたんですよぉ……」
「うぇぇ……良かったにぇぇ……」
「はいぃ……」
「むうぅ……」
お姉様は少し悔しそうに顔を顰めている。
天真爛漫だが、とても嫉妬深い。
これこそ私のお姉様だ。
「お腹空いたぁ……!」
「あ、準備しますね……」
お姉様は顔を真っ赤にしながら机へ突っ伏した。
そんなお姉様を尻目に私は台所へ向かう。
「これかな……」
古いコンロに乗せられている鍋が視界に入った。
真守さんの置き手紙には小綺麗な文字でしっかり温めてくれと書いている。
「何だろうこれ……」
鍋の蓋を開けると見たこともない液体が入っていた。
白くてドロドロとした液体の中に刻んだ人参やジャガイモが入っている。
「おー……」
しばらくして私は沸き立つ鍋から漂ってくる甘い香りに声を漏らした。
私は嗅いだことのない優しい香りを漂わせているそれを皿へ盛り付け、居間へ足を踏み入れた。
「何それぇ……?」
「うーん……恐らくカレーの仲間かと……」
「良い匂いだねぇ……」
「食べてみましょうか……」
不思議な感触の液体をスプーンで掬って口へ運ぶ。
「おっ……」
「おぉ……これは……」
甘い。意外にもその液体には辛味が無かった。
優しい野菜の味の中に牛乳の風味が感じられる。
「ウマァイッッ!!」
「美味しいですねぇ……!」
私達は真守さんが用意してくれた昼食をのんびりと楽しんだ。
「ごちそうさまでしたぁ……」
「美味しかったぁ!」
20分後、真っ白になった皿を盆へ乗せていく。
満腹になったお姉様は明らかに機嫌が良くなっている。
今のお姉様なら皿洗いもやってくれるのではないだろうか。
試しにさり気なく聞いてみよう。
「お姉様も手伝ってみませんかぁ……?」
「やっ!」
「そうですか……」
漫画に夢中になっているお姉様を動かすのは至難の業だと思い知らされた。
真守さんでなければお姉様はきっと動かないだろう。
「昼寝しよ〜……」
「そうですねぇ……」
居間から聞こえてくるお姉様の眠そうな声に相槌を打つ。
洗い物が終わったら私もお姉様と一緒に眠るとしよう。
「ふぅ……」
洗い物を済ませて居間に戻ると、お姉様はベッドの中央に大の字で寝転がっていた。
お姉様はとてつもなく眠そうだが、このままでは寝ようにも寝られない。
「詰めてくださいよぉ……」
「あい……」
少しだけ広くなったベッドへ体を沈める。
私は深い眠りに誘われるまで天井を見つめていた。
「早く帰ってこないかなぁ……」
「そうですねぇ……」
狭い寝床に身を寄せ合って天井を見上げる私達。
何だかとても懐かしい気持ちが込み上げてくる。
「明日もお昼寝しようねぇ……」
「ですねぇ……」
私の腕の中でお姉様は甘えた顔で微笑んだ。
あぁ、幸せだ。とてつもなく。
誰が何の目的で私達を人間の姿に変えたのかは分からないが、今はただこの幸せを噛み締めていたい。
「ただいまぁ……」
「おっ……!」
「あっ……」
睡魔に飲み込まれていた意識が一瞬で目覚める。
私がベッドから身を起こすと同時にお姉様は玄関へ駆けて行った。
「おかえりぃっ!」
「よしよぉし……良い子だ……」
「むふふふぅ……」
何度も心の中で求めた大きな手。
それに撫でられるお姉様はとても幸せそうだ。
「お、おかえりなさい……」
「あぁ……ただいま……」
私も撫でて欲しい。あの慈しみに満ちた優しい掌で。
そう私が口に出す前に真守さんの掌は私の眼前に迫っていた。
「今日もありがとう……」
優しい手付きで私の頭を撫でてくる掌。
それを感じているだけで全身の力が抜けていく。
「んみゃあぁ……」
「私もしてぇ!」
「あぁ……分かったよ……」
真守さんは嫌な顔をせずに私達の我儘に最後まで付き合ってくれた。
こんなに親切な人と一緒に居られて私はとても幸せだ。
「今度の休みは3人でどっか行こうかぁ……」
「行きたぁい!」
「いきなり遠出するのは疲れるだろうからなぁ……そこら辺の散歩でもしてみようか……」
「したいです……!」
「決まりだね……」
真守さんとの初めてのお出掛け。
今から楽しみで仕方がない。
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