同僚

 窓から差し込んでくる陽光。

 朝というものはどうしてこんなにも早く迎えてしまうのだろう。


「飯作らないとな……」


 重い腰を上げて台所へと向かい、昨夜に仕込んでいた具材が入っている鍋へカレールーのブロックを投入する。


 それをじっくり煮込みながらゆっくりと掻き回す。

 スパイスの刺激的な香りが微かに漂ってくる。


「うん……オッケー……」


 味見に使ったスプーンをシンクへ落とす。

 この味付けならきっと大丈夫だろう。


 俺は手紙を片手に寝室へと向かう。

 ベッドの上で2人は仲良く寄り添って眠りに就いている。


「行ってきます……」


 安らかに眠っている2人の頭を優しく撫でる。

 満足した俺は手紙を机に置いて自宅を後にするのだった。


 会社には歩いて30分で着く。

 まだ時間もあるし、コンビニに昼飯でも買いに行こう。


「どうするかなぁ……」


 昼飯は大切だ。昼飯の当たり外れが1日のモチベーションに関わるほどだ。

 よって今日は冒険せずに安牌を取っていつもの焼肉弁当にしよう。


 焼肉弁当と麦茶を片手にレジへと向かう。

 この2つが俺の中では王道の組み合わせだ。


「ありがとうございました〜!」

「あざます〜……」


 馴染みの店員さんから商品と活力を受け取った。

 いつもご苦労なことだ。俺も頑張らなければならないだろう。


 会社まではもう少しだ。

 俺はビニール袋を引っ提げて歩みを進める。

 

「おはよ〜……」

「おはよう……」


 背後から眠そうな声で挨拶をしてくる女性。

 ご近所であり、俺の同期でもある三雲奈月みくもなつきだ。


「また寝不足……?」

「まぁねぇ……映画に夢中になっちゃってさぁ……」

「前もそんなこと言ってたな……」

「え〜? そうだっけ〜?」


 俺の言葉に奈月は優しく微笑んだ。

 後ろで結んでいる美麗な黒髪が風に靡く。


「聞いた気がするけどなぁ……」

「そこは自信持ってよぉ……」


 奈月はとてもフレンドリーな女性だ。

 こうして話すようになったのも彼女がキッカケだった気がする。


「まぁ……今日も頑張ろう……」

「だねぇ……終わったら飲み行こうよ……」

「あー……今日は駄目なんだ……」

「どうしてぇ……?」


 キョトンとした表情のまま首を捻る奈月。

 ここは少し嘘を交えて事情を話すことにしよう。

 

「昨日から知り合いの子供を預かっててさ……買い物とか面倒とか見ないといけないんだよ……」

「ふぇー……大変そうだねぇ……どんな子なの……?」

「双子の女の子だよ……高校生くらいの……」

「ふーん……」

「だからまぁ……飲むのはまた今度にしよう……ごめんな……誘ってくれたのに……」

「いいよぉ……落ち着いたら言ってねぇ……」


 優しく微笑んだ奈月は俺の背中を軽く叩いてくる。

 まるで赤子を落ち着かせる母親のようだ。


「それにしても暑いなぁ……」

「干からびそう……」

「早く会社で涼みたいな……」


 そんな調子で鉄筋コンクリートのジャングルを突き進んでいると、ようやく見えてきた。


 会社オアシスだ。


「おはようございます〜……」

「おはようございま〜す……」


 奈月と共に涼風が吹いている営業部の部屋へ足を踏み入れる。

 涼しい。なんて居心地が良いんだ。


「また後でねぇ……」

「はいよ……」


 今日も忙しくなるだろうが、家で待っている2人の為に何とかして乗り越えよう。

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