休日終了

 窓の外がいつの間にか暗くなってきている。

 どうやら2人とかなり話し込んでいたようだ。


「お風呂沸いてるから勝手に入ってね……」

「あの……着替えはどうすれば……」

「あ〜……今日は俺の貸すよ……」

「え、いいんですか……?」

「うん……2人が嫌じゃなければだけどさ……」

「いいよぉ!」

「じゃあ……これ着替えね……」


 俺は2人の前にスウェットを差し出す。

 それを受け取った姉妹は目を輝かせながら風呂場へと向かう。


「楽しみだねぇ!」

「はい……!」

「夕飯作ってるからゆっくり入りなよ……」

「うん!」

「行ってきます……!」


 風呂場から聞こえてくる歓声を聞き流しながら、夕飯の支度に取り掛かる。

 こんなに暑い日はそうめんでも作るとしよう。


「色々と買ってこないとなぁ……」


 調味料だけ入っている冷蔵庫を眺めていると、不意にそんな声が漏れた。

 食料は残り少ないし、着替えも必要だ。明日中に揃えられるだろうか。


「ふぅ〜……スッキリしたぜぇ……」

「は〜……」

「もう少しで出来るから座っといてぇ……」

「ういぃ……」


 風呂場から出てきた2人の頭には白い猫耳が生えている。

 気が抜けたら生えてくるとかそういう代物なのだろうか。


「生えてるよ……耳……」

「あ〜! 油断してたー!」

「2人が楽ならそれでもいいよ……ここでならだけど……」

「分かったぁ!」

「あ、これ読んでも構いませんか……?」

「いいよぉ……」

「私も読みたい!」


 2人は机に置いていた漫画を手に取って読み始めた。

 2人が身を寄せ合って漫画に目を通す姿を眺めていると、まるで父親になったような気分だ。


「どうぞー……」

「これそうめんでしょ! 知ってる!」

「美味しそうですね……!」

「そう言ってもらえると嬉しいよ……」


 今は簡単な料理しか作れないが、振る舞う相手が居ると自然と気合が入るというもの。

 2人の為に新しい料理を覚えてみるのも悪くないだろう。


「うまぁい!」

「ツルツルです……!」

「それは良かった……」


 癒される。ただただ癒される。

 平和で長閑なこの景色を俺は守っていきたい。


「明日から俺は仕事だからさ……留守番頼めるかな……?」

「うぇー! 遊べないのー!」

「ごめん……色々と用があるから遅くなるよ……」

「だ、大丈夫です……! 私達に任せてください……!」

「うん……ありがとう……」


 シロの大いなる決意につい頬が緩む。

 彼女に任せていればきっと大丈夫だろう。


「ごちそうさまぁ!」

「ごちそうさまでした……!」

「はいよ……」


 どうやら気に入ってもらえたようだ。

 食事を終えた2人は満足気に微笑んでいる。


「これ面白いねぇ!」

「まだ続きあるから読んでもいいよぉ……」

「ありがとうございます……!」


 皿を洗う音に紛れて2人の楽しむ声が聞こえてくる。

 家事が終わったらあの輪の中に入れてもらおう。


「面白いか……?」

「うん!」


 俺は酒を片手に2人が座っている対面へ腰を掛けた。

 2人の楽しんでいる様子をぼんやりと眺めていると、タマが徐に口を開く。


「膝乗りたい!」

「いいよぉ……」


 夢中になっていた漫画をシロに譲ったタマは膝の上へ腰を掛けてきた。

 あの懐かしい感覚が徐々に蘇ってくる。


「よしよし……」

「えへへぇ!」


 タマは撫でられながら溶けるような笑みを浮かべている。

 柔らかい猫耳と髪の感触がとても心地良い。


「眠いぃ……!」

「そうだなぁ……そろそろ寝ようか……」


 時計は21時を回ろうとしている。

 あと3時間で今日が終わってしまう。


「俺は床で寝るから2人はベッド使いなよ……」

「いいんですか……?」

「あぁ……大丈夫だよ……」

「やったぁ……!」


 よほど限界を超えていたのだろう。

 タマはベッドに倒れ込んだ瞬間、安らかな寝息を立て始めた。


「私も寝ますね……」

「はいよ……お休み……」

「お休みなさい……」


 明日は少しだけ早起きしよう。

 2人の食事を作る為に色々と作らなければならない。

 

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