転生少女と厨二少年とサンタクロース

 さて、堕天使様という正体を明かしたアオくんは以前とは立ち振舞いが少し、いやかなり変わった。


「あの、アオくんのことはこれから何て呼べば良いかな?堕天使るなんちゃら様って言えば良いのかな」

「呼び名か。真名を明かすことはできないからな……。今まで通りアオと呼んでいいぞ」


 なんと、口数が増えたのだ!多弁になったのだ!これはとても良いことである。アオくんは無口すぎて私以外と学校で話すことはほぼ無かった。これを機に友達が増えてくれれば良いなと思ったのだが。


 アオくんが何か周りから距離を取られている。


「あ、この間のラブレターまだアオくんに渡せてないの。もうちょっと待っててね」

「いや、も、もうラブレターとか渡さないで良いから!大丈夫だから!」


 というように私の仲介業者の仕事も次第に無くなった。アオくんに告白する人がいなくなったからだ。


 にしても、何故アオくんはみんなから避けられているのだろうか。いや、私にも心当たりはある。


 それはズバリ!堕天使様と話すなんて恐れ多いってことだよね!?普通の人間ごときが近づいたら駄目だと思っているに違いない。みんな、アオくんと仲良くしないなんて人生損してるな。アオくんの心は広いから、私みたいな普通の人間とも喋ってくれるのになあ。


「もっとみんなアオくんと仲良くすればいいのになあ……」


 とか言ってたらクラスの友達にギョッとされた。


「え……あんたそれ本気で言ってる??」

「勿論本気だよ。容姿端麗で文武両道の完璧超人のアオくんと仲よくしたくない人間なんて存在しないよ」

「いや、まあ確かに遠くから見る分には目の保養だどさ。あいつ厨二病じゃん」

「厨二病?何言ってるの?アオくんは本物の堕天使様だよ?」


 友達がとんでもない顔をしてこっちを見つめる。何だその苦虫を潰したような顔は。


「もしかして堕天使様だって本気で信じてるの?もしかしてサンタさん信じてるタイプの人間?」

「サンタさんって存在しないの…!?」


 ここは異世界である。しかも私は転生という摩訶不思議な体験をしたのだ。サンタの一人や二人いたところでおかしくないだろう。


「小学生のときにサンタさん捕獲作戦したら罠にサンタさんの服が引っ掛ってたもん!サンタさんは実在するよ」

「あんた何てことをやってるのよ。そんな小学生がいてたまるか」


 口論をしていると、アオくんが通りかかった。


「アオくん!サンタさんは実在するよね!」

「サタン……!?もしやあの悪魔が」

「そうじゃなくてサンタクロース!」

「は?サンタクロースがいるわけないだろう」

「あんた、厨二病のくせにまともなことも言うのね」

「ひどい!何てこと言うの!?アオくんも一緒にサンタさん捕獲作戦したじゃん!」

「それは場の雰囲気に呑まれたからで。兎に角サンタクロースはいないぞ」


 そんな……やっぱりこの世界にもサンタさんはいないのか。


「そっか。薄々気がついてはいたんだ。私がクリスマスにサンタさんに頼んだ玩具のレシート、お父さんの財布に入ってたんだよね……。確かあれは私が幼稚園生のとき」

「幼稚園のときに気がついてたの!?早っっ。というかその時点でいないことに気がついたのに捕獲作戦やったの?馬鹿なの?」


 そっか、そっか、やっぱりサンタさんはいないのか。そっか、そっか。


「ちょ、ちょっと!ハルが落ち込んじゃったじゃない!どうにかしなさいよあんた」

「え、これ俺が悪いのか?」


 何か二人が騒いでる。でもそっか、たとえ異世界でもサンタさんは……


「ハ、ハルちゃん……!サンタさんは実在するぞ!」

「アオくん……?でもそしたら何でお父さんの財布にレシートが……?」

「そ、それは!悪魔の仕業だ!子供の夢を壊してそれを糧とする悪い悪魔の仕業なのだー!」

「悪魔。そうなんだそうなんだ、じゃあサンタさんはいるのか!!」


 目の前が明るくなった気がした。サンタさんはやっぱり実在するのだ。ついでに悪魔も。それに、私の目の前にいるアオくんは堕天使様だ。異世界ってすごい。異世界ってすごい……!!

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