転生少女と厨二少年

 天使様ことアオくんのおかげで、私の生活の彩りは豊かになった。なんせ天使様である。存在自体が尊い。


 さらさらでふわふわの髪の毛に長い睫毛の下のぱっちりした瞳。肌は白く透き通り、もちもちである。あとなんか良い匂いがする。


 そんな天使様と過ごせるなんて、最高と言わず何と言う。


 まあ、私がアオくんに癒されている一番大きな理由は空気感だ。何というか、ほのぼのしているのだ。人見知りで少し大人しい性格なのだが、元気いっぱいの幼児と接するのに疲れていた私には、それが心地よかった。


 はじめのうちは近づいてもすぐに逃げられてしまっていたが、根気良く絡みに行続けた結果。今では一緒にお昼寝する仲である。


 あ、いつも寝ている訳ではない。ちゃんと会話もしている。アオくんは地頭が良いのか、幼児特有の長くて何言ってるかわからないことを話さない。つ・ま・り!会話にストレスがない。


「お腹空いたねー」

「ねー、もうすぐお弁当の時間だねー」


 以上。とてつもなく簡潔な会話である。これでもだいぶ仲良くなった方なのだ。


 他の子が

「アオくん一緒に鬼ごっこしよ」

と言っても超高速で逃げる。とてつもなく足が速い。そして私の背中に隠れる。私は信頼されているということなのだ!


「アオくん足が速いのに、鬼ごっこやらないの?」

「走るの面倒くさい」


 私の服の裾を掴みながらそう言う姿はめちゃくちゃ可愛かった。こんな天使様がいたら、そりゃ絡みまくるに決まってるじゃないか。


 さて、そんなアオくんと私も気がつけば中学生になっていた。


 中学生にもなれば、さすがに私も周りとの精神年齢が釣り合い、クラスの子と仲良くできるようになっていた。


「あの、これをアオくんに渡してくれないかな……」

「アオくんに?了解、渡しとくね」


 そしてアオくんはとてつもなくモテた。私はラブレターの仲介業者となっていた。まあ、正直アオくんがモテるのはわかる。まず顔が良い。べらぼうに良い。そして運動神経も良い。さらに頭も良い。モテる要素ばかりだ。


 さて、ラブレターをアオくんに渡そうと思い、私はアオくんを校内で探すが、一向に見つからない。教室も。体育館も。図書室も。グラウンドも。探しても探してもどこにもいない。


 もう見ていない場所は屋上だけである。屋上への階段を駆け上がり、ドアまでたどり着いた。屋上は立ち入り禁止の筈なのに、鍵は空いていた。


 ドアを開けた先の屋上では、アオくんが黄昏ていた。学校の屋上。降り注ぐ太陽光。そして爽やかな風。神々しい空間が、そこにはあった。


 そしてアオくんの服装はいつもとは少し違った。十字架のついたチョーカーに黒い手袋、そして何か凄そうな剣。


「あ、アオく……」


 アオくんは私が話すのを制止するような仕草を行った。


「アオは俺の仮の名だ。本来の俺の名は漆黒の堕天使ル――すまないが真名は教えることができない」


 どうやらアオくんは本当に天使様だったようだ。いや、正しくは堕天使様、か。

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