転生少女と厨二少年
睦月
少女と天使様
私はひたすら走っていた。何故かはわからないけど、あの場所に行かなければならないという焦燥感にかられていた。病み上がりの身体では、呼吸もままならない。でも、あの場所に行かなければならないのだ。
走って、走ってたどり着いたのは海。海水浴をする季節でもないため、賑わってはいなかった。そこには先客がいた。黒髪黒目の、いたって平凡な色彩をもつ少年。なのに、彼の髪や目が一瞬だけ青く見えた。光の反射のせいだろうか。海辺に立つ姿は、天使様のようだった。
「ハルちゃん」
彼は私に向かってそう言った。
「ハルちゃん……!やっと会えた……!」
私の名前はハルではない。×××だ。
「外見は来世と違ったけど、一目でハルちゃんってわかったよ」
人違いと思ってしまうシチュエーション。けれども不思議と「ハルちゃん」は私を指しているに違いないと感じる。
「あぁ、今の君は何も知らないのか」
そう言っている彼の姿は、少し寂しそうだった。
「来世でハルちゃんは、前世の俺と―――」
視界が黒でいっぱいだ。私は今、どういう状況なのだろうか。
「おぎゃあー!おぎゃあー!」
赤ちゃんの泣き声がする。それも大音量の。まるで自分が声を発しているときのような声量だ。もしや、私自身が赤ちゃん……?
「おめでとうございます!無事に産まれました!」
上を見上げると、ぼんやりと人の形が見えた。目を凝らすと、ピンクの髪の看護師さんがいた。そう、ピンク。染めているような見た目ではなく、地毛がピンクだと思われる。
言語は日本語。病室の雰囲気も現代日本。なのに地毛がピンクの人間がいる。これは、平行世界というやつでは。噂に聞く異世界転生というやつでは。
とてつもなくワクワクしてきた。だって異世界である。転生ということは私は一度死んでしまったのかもしれない。でもそんなことはどうだって良い。今はワクワクが止まらないのだ。
転生者あるあるのチート頑張るぞーーーー!!!
と思っていた時期もありました。私は幼稚園児になった。現実は無常だ。チートなんて存在しなかった。
まずは知識チート。そもそもここは現代日本である。私ごときがこれ以上すごい技術を広められる訳がない。ならば勉強をしようと思った。が、よく考えて欲しい。私は前世でたいして勉強が好きではなかった。なのに、やる気が続くか……?続く筈もない。
次に人間関係。幼児のテンションを舐めるな。常にハイテンションで大騒ぎ。それに付いていくだけで私は精一杯だ。おかげで私は精神的にも体力的にも力尽きて、遊び以外ではひたすら寝ている。お昼寝最高。いいもん私は幼児だもん。寝るのが仕事だもん。
そんなこんなで今日もお昼寝をしていると、お母さんに叩き起こされた。
「おかーさーんー!まだ眠いー!寝させてよー!」
「いいから起きなさい!引っ越してきたお隣さんが挨拶に来たの」
「おかあさんだけで挨拶すればいーじゃん」
「お隣さん、ハルと同い年の子がいるらしいの。ハルも挨拶しなさい」
連行された玄関には、天使様がいた。青い髪と目。とてつもなく整ったお顔。そして纏っている神々しい雰囲気。天使様に違いないと思わせる少年が、そこにいた。
「お母さん、天使様がそこにいる」
「この子はアオくんって子よ。ちゃんと挨拶しなさい。あと、アオくんは人間よ」
私は異世界転生という不思議な出来事にあったのだ。天使様が現実にいたっておかしくないだろうに。
「こんにちは!ハルです!よろしくね」
そう言うと天使様は自分のお母さんの後ろに隠れてしまった。可愛い。
「ごめんね、この子ちょっと人見知りで。アオ、挨拶を返してみて」
天使様がひょこっと顔を出した。身体はまだお母さんの後ろに隠れている。可愛い。
「アオ、です……」
声はとても清んでいる。声まで綺麗なんて、やっぱりこの子は天使様に違いない。
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