よるのふほう
「まら、りあ」
「ええそうよ」
「そっかぁ……運がなかったんだなぁ――残念だ、本当に」
俺はため息を一つ。
見知った顔がもう見られない、その声を聴くことができない。確かに悲しいことだ。だが、そう思うだけ。
同僚の死、延いては他人の死、そういったもののにはとっくのとうに慣れてしまっているからな。その傾向は決して俺だけではない。
企業団地のコンセプト、労働力の集中・効率化! というのは昔と違ってそうせざるを得ないから。つまり労働力の減少問題だ。
元々この国は少子高齢化が進み、ただでさえその数は減り続けていたのだが、そのダメ押しになったのが数々の感染症だ。
特に猛威を振るうのが性行為によって感染するマラリア原虫と家屋に潜み寝ている我々を襲撃するサシガメ……によって媒介されるデング熱。
人類史において大変お世話になった「蚊」という昆虫が絶滅危惧種になって以降急速に進化したこれらクソったれによって毎日の孤独死はうなぎ登り。
そうしたことが何年か続いた結果、こうなった。
ほー、今日の支給メシはシルバードリンク味の栄養補完ゼリーが3つと「大豆エンジョイ・ベルギーチョコ味」、免疫向上タブレット・グレープフルーツ味(ビタミンD入り)か。
上々だな。
少し前まで支給メシと言えばあの訳分からん映画『2001年宇宙の旅』(※1)に出てきたディストピア飯そのものだったからなぁ。
チュ――――ッルルルル……
バキッ、ガリ、バリ、バリバリ、バリ……
ポリポリポリポリ……
<セックスのさいは、かならず、こんどぉむを、つけましょう!>
<つきにいちどの、せいびょうけんさを、わすれずに!>
<ちゃんとせいりがくるか、しきゅうをおもちのかたがたは、わすれずきろく!>
<あかちゃんには、えがおで、むきあいそだてましょう!>
<しゅっしゃたいしゃのさいは、わすれずむしよぼうを、しましょう!>
聞きなれた合成音声の下でしゃち…………白肌の水着たちは栄養補給に勤しんだ。
カタカタカタカタ……
カタカタカタカタカタ……
カタカタカタカタカタカタ……
カタカタカタカタカタカタカタ……
カタカタカタカタカタカタカタカタカ……
Pi-Po-Pa-Po-♪~
Pi-Pon-Pa-Po-♪~
Pin-Pan-Pan-Pon-♪~
長かった一日が終わる。定時の合図だ。一斉に白肌の水着は立ち上がり、素晴らしきお行儀の良さでもって粛々と退社していく。
ミーンミーンミーンミンミンミンミンミンミン、ミーーーーーーン…………ミィーンミンミンミン…………
蝉たちが歓迎する。
帰りの地獄を抜けて地上に上がると、毎度のように蝉の鳴き声がする。時計を確認するともう05:00になろうとしている。まずいぞ急いでアパートに戻らないと。
太陽が、熱さが戻って来る!
……カナカナカナカナカナ……
……カナカナカナカナカナカナ……
……キキキキキキキキキキキィッ――
……ケケケケケケケケケケケケェッッ――
蜩が時間帯の更新を告げる。
人類は傲慢であった。
星の変化は自分たちと神によって創られた良き生物種のみ、悪い影響を受けると考えていたからである。
実際は全ての生物に影響を与え、ビックシックスとなった。
虫たちの変化はその先鋒に過ぎないのだ。
※1
キャラクターの感想です。決して中の人の感想ではありませんからね!
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