よるちかてつ

 ホットなハプニングを経て駅に到着。

 駅というのは鉄道駅で、地下鉄のことだ。

 温暖化とによって急激に上昇した気温は、予想をはるかに超えるレールの熱膨張という形で陸上輸送インフラの王様を歪み砕けさせた。

 まるで解け始めた死にかけのナメクジのような有様となった車両群には鉄オタだけでなく多くの人が涙したものだ。

 そんな訳で陸上輸送で唯一生き残ったのがこの地下鉄というわけ。

 元々都市内部をアリの巣のごとく構築されていた地下鉄道網は、その半分を物資輸送に特化させ、残りを社ち…………国民の為に使用されている。




 ミーンミーンミーンミーーーーーーン…………ミィーーーーーーンミンミンミン…………ミーンミーンミー……

 ジ――――ジジジジジジジジジジジジジジジジジジィッ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジ――――

 蝉たちの喚きが遠ざかる。

 

 流石に大多数の人間が通るから、こういった公共施設には二重扉とかいう予算の重りはない。かわりに入口にはミストシャワーがゲリラ豪雨版霧雨、のように降る。

 ついでに殺虫剤も。

 汗と殺虫剤を雑に流し、側溝に大量の汚水が流れ、水着姿のしゃち……じゃなくて社員が行儀よく進む。

 ガンガンに効いている冷房が火照る肌を冷凍していく。


 人類が夜行性となり、日の光を浴びなくなってから、肌の漂白は自然に進み、大抵の肌色は白だ。これで後は髪色と瞳色と鼻の高さを変えれば立派な白人! そう言って宣言通りにし、奇妙な民族的優位を醸し出す連中もちらほらと見かける。

 そんな中、上から来る白と時を同じくして下から少数の黒……というより小麦色が昇ってきた。

 両者は合流。

 白は奇妙な緊張と劣等がその顔に滲む。

 黒……小麦色は僅かな自慢と優越が態度に出る。


 彼らはいわゆる上級国民。金持ちというやつだ。


 ホームに着くと自然に対色はマクスウェルの悪魔が作用したように分離する。

 小麦色は列車の最先頭に。座席に悠々と座る。

 白色はそれ以外の車両に。座席はなく、皆立ちっぱなし。つり革を掴むその腕は家畜用の鎖を連想させた。



 ――ああクソ! やっぱり社畜じゃないか!


 脳内に流れるBGMはドナドナ。


 ~ドナドナドナドナ♪~

 ~子牛を~せて♪~


 哀愁漂う無力なしゃか…………社畜を載せて今日も地下鉄は元気よく。




 熱と夜は国民を二つに分けたもう。

 貧民は地上に、太陽を奪われ、権利を労で買い。

 富民は地下に、贋陽を急造し、全てを金で買い。

 蒸気の発明と共により一層の広がりを見せた格差はここに最盛を迎えた。

 肌の色はその象徴である。

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