よるおさかん

 ミーンミーンミーンミーーーーーーン…………ミィーーーーーーンミンミンミン…………ミーンミーンミーンミン……

 蛁蟟のお出迎え。


 月が照らす中、俺たちは出勤する。

 全員姿で。


 何かのコスプレパーティ? それともみんな揃ってヤクでもキメた?

 いいや違う。みんなクソ真面目に出勤中の、サラリーマンだ。

 

 天気予報によると現在の外気温は38、湿度は最低でも60、最高で90。少し前までは『熱帯夜』と呼ばれていたソレは今『獄暑夜ごくしょや』と呼ばれている。

 そんな状態でを着て外出した結果、待っていたのは……





 死。

 そう、熱中症だ。


 既に昼間は活動不可能な状態まで熱波が吹き荒れ、夜だってこのザマ。苦肉の策として人々が始めたのが…………外に出るときは水着にしよう、というルール。

 最初期は全裸どもが町を練り歩き(主に、というか全員オッサン)、パトカーのサイレンがあっちにこっちにと働きバチのように飛び回ったそうな。

 既に四季は崩壊し、世界の大抵は2つの季節となった。

 暑くてジメジメした季節か。

 もしくは暑くてカラカラした季節か。

 もちろん今の日本には――前者しかないぞ。

 クソが。


 そんなわけで人類は昼を喪失した。

 どうにか活動できる夜のみ、生産活動ができる。


「――、――、――――――ッ」

「ァッァッ――――!」


 おっとこれはこれは……か。お盛んなことだ。

 そういったことは室内でやれ?

 いやいや……そうもいかないのだ。

 ヨルの行為ってのはほら……だろ? そうするとなって、それを察知したエアコンがする。

 すると――二酸化炭素が出る。温暖化が進む。それは不味い。

 誰が言い出したのかしらないが、気がつけば世の中には野外プレイというのが常識になってしまった。

 男も女もそれ以外も、みーんな水着だ。少なくとも男のヤる気はすぐ出たのだそう。


 俺? 俺はほら、カノジョ一筋だから。だからそう、決して誘惑には……そう、決してガン見は――――






 ジ――――ジジジジジジジジジジジジジジジジジジィッ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリィィィ――――ジ――――ジジジジ……

 鳴蜩が求愛する。






 …………ごちそうさまでした。

 

 会社に行くことだけでもイロイロと大変な世の中だぜ。

 そんな俺の前には人間だけでなく――多種多様な虫たちがそれぞれのやり方で求愛の舞とその音色を奏でていた。




 愚かなとある生命体の生産活動によって、星はちょっとだけ暖かくなった。

 そのちょっと、によってほぼ全ての種は昼を奪われた。

 適応できなかったもの、進化が遅すぎたものはみな、絶滅したのだ。

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