私は見落とさない

スーパーに寄ってあたしの家の前まで沙織が送ってくれた。


「今日はあたしの部屋寄って行きなよ。新刊出てるからさ」

「えっ!?いや…」

「続き気になるでしょ?早く!」


繋いでいた手を引っ張って家に入る。

お母さんに牛乳とパンを渡してから、自分の部屋に入った。


「お……お邪魔します…」


あたしの部屋に入って目に見えて緊張してるのが伝わってくる。


「なんか緊張してる?あたしの部屋なんて何回も入ったことあるでしょ?」

「だ、だって……最近は…なかったでしょ?」

「呼んでもなかなか来なかったじゃん」

「こ、心の準備が……」


沙織の視線があたしの目から徐々に下がっていって唇で止まった。


「ふーん」


気づかないふりをしてお茶を一口飲む。


「あ!あー!し、新刊出てるね!」


急に沙織が立ち上がったかと思えばあたしの部屋に置いてある本棚の方へと近づいっていった。あたしが買い揃えている漫画の新刊。前までは新刊が出るたびに沙織もあたしの部屋に来ては読んでいたものだ。

新刊を手に取って開いて中を見ているが視線に熱が入っていない。きっと別のことを考えているんだと思う。


沙織があたしの部屋に来なくなったのは何ヶ月か前から…正確に言えば、あたし達が付き合い始めてから。それから全くあたしの家に来ようとはしなかった。意識してるんだと思う。沙織の視線は付き合う前よりさらに熱を帯びたし、前はあたしの目を見てる事が多かったのが最近では口を見てることも多くなった。


そして今、少し強引だったけどあたしの部屋に沙織がいる。


これはもうOKということでいいんじゃないだろうか?

だってしたいんでしょ?

あんなに熱のこもった視線を唇に向けてきてしたくないなんてことないよね?

あたしを見る時の視線と同じくらいそれ以上の熱が唇に注がれてるの知ってる?

沙織があたしをいっぱい見てるのと同じようにあたしも沙織のこと見てるんだよ?


あたしは沙織の隣に立ち沙織が持っている漫画を手に取った。

沙織の視線が漫画からあたしの手にうつって、徐々に視線が上がっていき口、鼻、目が合う。熱が籠る。


その視線にあたしの体が熱くなっていくのがわかる。

あたしの事が本当に好きなんだと伝わってくる。


「ねぇ」


沙織がビクッと揺れた。

あたしは沙織に直接聞いてみることにする。

付き合うことになった時と同じように…


 


  ――あたしの事好きなの?




「……キスしたいんじゃないの?」




  沙織は小さく頷いて、あたしに熱い視線を向ける

  ――好き

   小さく呟いた




沙織は熱い視線をあたしの唇に向けた。

「…し…したい」


 

 

  あたしは小さく呟かれた好きという言葉と沙織からの熱い視線で体が一気に熱くなった。

  ――あたしも沙織の事好きだよ




沙織の唇を見た。

「あたしもしたいよ」




沙織の唇に自分のを優しく押し付けた。


彼女の視線は好きがいっぱい詰まっていて

あたしは彼女の視線を見落とさない。

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見落とす私と見落とさない私 シャクガン @yamato_

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