彼女は見ている

宿題を終えて携帯を見ていると、あたしが最近ハマっているアイドルグループのアカウントにチケットの申し込み期限のお知らせが出ていた。日付は…昨日まで。昨日!?!?

せっかくファンクラブに入っているのにファンクラブ先行の申し込みを逃すなんて!

あたしが頭を抱えて叫んでいると小学校からの幼馴染の沙織が呆れた視線をあたしに向けて言ってきた。


「でも、それ先行申し込みなんでしょ?まだ一般があるんじゃないの?」


確かにこれからまだ他のサイトでもチケットの販売がされるけれど、ファンクラブ先行はどこのサイトより早く抽選が行われて1番ステージ近くが当たる確率が高いのに…

そんなことを力説したら沙織には引かれた。うん。こういうのはあまり興味がないのは知っているけどね。


沙織が興味があるものと言ったら、甘い物と………私。


沙織の視線の先には好きなものが写っている。瞳の奥には熱がある。沙織の好きな甘い物を見ている時の視線は結構な熱いものを感じる。さらにあたしを見ている時の視線はもっと熱いものが瞳の奥から感じる。目を合わせるとあたしが溶けてしまいそうなくらい。



ファンクラブ先行は自業自得だしこれからまだ先行抽選があるだろうから、いつまでも教室で嘆いていても仕方ない。宿題を終えたノートを机に放り込んで今日はさっさと帰ることにする。


2人で帰り道を肩を並べて歩いて行く。見慣れた風景にいつもとは違う車が停まっていて近くの看板にはクレープの文字が書かれていた。

隣の彼女を見るとクレープの看板を熱が入った視線で見つめていた。


「お!クレープ売ってるじゃん!食べていこうよ!」

「う、うん」


何食わぬ顔で沙織をクレープ屋さんに連れて行く。

あたしもクレープは好きだし夕飯前だけどたまにはいいでしょ。デザート系からおかず系色んな種類のクレープが売られているけど、どれにしようか……

隣に沙織が少し遅れて並ぶ。

ちらっと横目で彼女を見ると二つのクレープを視線が行ったりきたりしている。チョコバナナといちごホイップか…


「あたしチョコバナナにしようかな!沙織はイチゴホイップにする?イチゴ好きでしょ?」

「じゃ、じゃあそうする」


シェアしようねというと嬉しそうにコクコクと頷いて目が輝いていた。

店員さんに注文をすると袖をクイクイと引っ張られて振り向いて沙織を見ると看板についたプレートに指をさしいて『一個増量すると二個目無料!!』の文字。

ほんと甘いの大好きだなって思いながら店員さんにホイップ増量をお願いした。



ベンチに座ってチョコバナナクレープを食べる。チョコとバナナとホイップの組み合わせってなんでこんな美味いんだろ…ホイップ増量されて口の中が甘々だけどクレープ生地がいい具合に合わさって美味い。勉強の後、夕食前の空いたお腹でおいしさが倍増されてる。

視線を感じて隣を見ると一口齧られたクレープを持った沙織がこっちを見ていた。


「こっちも美味しいよ?」


チョコバナナのクレープを差し出すと私が齧った方とは反対側を齧って「美味しい!」と頬を緩ませる。


「でしょー。他のも美味しそうだったけど勉強の後はやっぱり甘い物だよね」

「じゃあ、私のもどうぞ」


今度は沙織がいちごホイップのクレープを差し出してきた。

一口齧られたクレープ…こういうのって昔からよくやってたし今更だけど…今の沙織だったらきっと意識しちゃうんだろうなって思って沙織が齧った方を上から上書きするように口を大きめに開けて一口食べる。

いちごも美味しい。甘さと酸味がちょうどいい。

バナナクレープを再度齧ると甘々と生地。こっちも美味い!

チラッと沙織の方を見るとめっちゃクレープを凝視している。意識してる。意識してる。クスクスと笑いが込み上げてくるけど少し我慢して沙織の耳元で囁いた。


「間接キスだね」


赤らめた顔をこっちに向けてくる。


「今更照れてるの?こんなの昔っからしてたじゃん。ペットボトルの飲み物なんてしょっちゅう――」

「照れてない!」


照れ隠しのようにいちごホイップのクレープに齧り付いた沙織を横目にあたしもチョコバナナクレープを食べすすめた。

食べ終わって沙織を見ると残りのクレープを一口で食べて口の横にクリームをつけていた。ポケットからハンカチを出して拭いてあげて、自分の手もついでに拭いてポケットにハンカチをしまった。沙織の視線がずっとあたしの手を見ていて、沙織ってあたしの手も好きみたいで熱がこもった視線を感じる。


「それじゃ帰ろうか」


立ち上がって沙織に手を差し出した。

あたしの手を見ていた視線が徐々に上がってくる。腕、肩、首、口、鼻。そして目。視線が合うとさらに熱が強まった。


「手繋いで帰ろ?」


沙織があたしの手を握って立ち上がった。2人で家に向かおうと歩き出した時。


「栞」

「なに?」

「おばさんが帰りに牛乳とパン買ってきてって朝グループラインきてたの見てないでしょ」

「え?そんなの来てた?」


携帯を見ると確かに沙織と母と私のグループラインに届いていた。お母さんもあたしの信頼のなさをわかっているからグループラインに送ってきてるんだろうな。いや、あたしの信頼の無さじゃなくて、沙織が信頼されてるからか。あたしが信頼されてないわけじゃない!

とにかくスーパーに寄ってから帰らないといけないみたいだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る