双子姉妹百合異能バトル
「まさかすべての黒幕が姉さんだったなんて!」
特殊な能力を持つ子供たちが集められた学園、どういうわけだか私はそこに入学することになった。何の能力も持たないにも関わらず。
そんな私の周りで次々とトラブルは発生する。それら一連の事件は裏でつながっていた。仲間たちの協力を得て私はついにすべての黒幕を追い詰めることに成功したのだが――。
私と同じ姿をした女は舞台から悠然と私を見下ろす。双子の姉は余裕の笑みを浮かべていた。
腰まで長く伸びたあでやかな黒髪がスポットライトに映える。切れ長の目は赤く輝き、そこから感情を読み取ることは難しい。正面に組んだ腕のせいで豊かに盛り上がったバストさえ、威圧感を放っているように見えた。
基本的に私と彼女は同じパーツでできているはずだ。格好だって同じ制服を着ている。それがこうも醸し出す雰囲気が違うとは不思議な話だ。
ふぁさりとゆっくりとした動作で姉は長い髪をかき上げた。
「そう私こそが学園を牛耳る裏生徒会、その首領にして百合の紋章の能力者よ。その能力の名は"ゆりゆりラブラブえっち"。自身と対象を異空間へと引きずり込み百合性交を強制させる。先に絶頂を迎えた方つまりは敗者は勝者に対して絶対服従しなければならない。そして説明が終わった今、能力は効果を発動する!」
その宣言と同時に空気が切り替わったことを無能力者の私でさえ察した。
影の首領が特殊な能力を持っていること、その正体が不明であることは十分に警戒していたはずだった。先と変わらぬ講堂、けれども何かが違う。能力発動に巻き込まれ異空間に飛ばされた。
やばい。空間拘束系の能力者には今まで何度か遭遇したことがある。特殊空間に対象を強制的に引きずり込む。特定の条件を満たさない限り脱出は不可能。戦いはすでに相手のペースで進行している!
「そんなに緊張しないで」
首元に息を吹きかけられた。私の体は大きくびくんと跳ねる。いつのまにか距離を詰められていた。
動けない。前から2本の腕が硬くなった肉体をやさしくからめとる。甘い香りがする。熱い吐息が首のあたりをかすめるたび、その匂いは濃くなっていく。
どくんと激しく心臓が波打つ。呼吸が荒い。自分の体温が上昇しているのが感じ取れる。
もしかして私は興奮している? いやそれすらも能力に含まれている可能性がある。このまま流されるのは絶対によくない。というかそんなことよりなにより――。
「ちょっと待った!」
「何が? これからいいところでしょ」
「全然よくないよ。疑問点がたくさんあってそれどころじゃないよ」
私のわりとガチの制止に姉は一旦離れると何がなんだかわからないという顔をして見せた。
いやその"何がなんだかわからないという顔"をしたいのはそっちじゃなくてこっちの方なんだけどね。
「まずなんでそんな名前?」
「"ゆりゆりラブラブえっち"のこと?」
「そうそれ。他の人の能力名ってカタカナのおしゃれなやつだったじゃん」
「フランス語ね。みんなで話し合ってそれに統一しようって決めたのよ」
「まったく統一できてないじゃん」
最初聞いた時は耳疑った。よくある空耳的なあれかとも思った。でも聞き返してみたらちゃんとあってた。
1人だけ世界観がギャグだよ。いや他の人の能力名は能力名で耳なじみない言葉だからまったく何ひとつも覚えてないけどさ。
「気になってるのは名前だけじゃないよ。姉さんって直属の部下がいたよね」
「七耀剣ね、かっこいいでしょ」
「かっこいかどうかはおいといて――全員に、その、能力使ったの」
私の質問に姉は少しだけ戸惑ってから答えた。
「使った」
「うわー……」
話しながらなんとなく予想できてたことだったけど実際に本人の口から聞くとショックがでかい。自分で聞いたくせに身内のそういう話はあんまり聞きたくなかった。
こっちのドン引き姿勢を察して姉は釈明の言葉を追加する。
「この学園の支配を盤石にするために仕方がなかったのよ」
「でも能力ってさ、本人の欲望が形となって現れるんでしょ」
「そういう説もあるね」
わりと現在の主流の学説だよ。目をそらさずこっち見て話せ。
「それでその能力ってことは……じゃん」
「でも途中からすんごい面倒になってほとんど作業みたいなものだったから」
それはそれで余計ひどい。能力使われた側に失礼だと思う。
ひとつの疑問が解決すればまた別の疑問がわきあがってくる。この際だから私は聞きたいことを全部聞いてしまうことにした。多少あけすけな話になるとしても。
「姉さんと部下の間は絶対服従でしょ。部下の人同士の関係はどうなの?」
「微妙、だね」
「だからみんなバラバラで襲いかかってきたんだ」
戦力の逐次投入にもいろんな事情があるもんなんだなあ。
「そういうこと。仲良くして欲しいんだけどね」
「それは姉さん次第でしょ」
私の言葉の何かがひっかかったのか、姉はこちらをにらみつけてきた。
「私だってがんばってるもん。扱いに差をつけないように絶妙に調整して」
「たいへんそう」
「たいへんだよ。だいたい7人いるから毎日相手しても1週間かかる。ほんとは休みの日が欲しいよ。毎日えっちなことばかりしたくないよ」
うん、まあ、たいへんなのはわかったけど、それは全部自分で蒔いた種なんだから、しっかり自分で処理して欲しい。部下の人に何回か双子の私も迫られたことあったからそういうの含めてきっちりしといてくれ。
「なんかさあ、まったくそういう雰囲気じゃなくなっちゃったから言うね」
大きくため息をつくと、姉は多少もったいぶった様子を見せてから、口を開いた。
「実は"ゆりゆりラブラブえっち"などという能力は存在しません」
「どゆこと?」
何言ってんだこの人は? 自分で言いだしたことだろうに。
「私の能力は一定区域になんとなく人が近づけなくなるようにさせるだけです。絶対服従なんてさせられません。ただその人の望んでいることを命令してるだけ、ちょっと誘導したりはするけどね。いってみればただの話術ってことになるかな」
生まれて以来、下手すれば生まれる前からの付き合いだからわかる。こちらを油断させようとしてるとかじゃない、これ本当のやつだ。
私は私で正直な感想を返してやる。
「むしろそれはそれで常識外の能力だと思う」
「知らん間に影の首領に持ち上げられててすんごい困ってた」
姉は肩の荷がおりたみたいなすっきりした顔してほほ笑んだ。
「それでどうしよっか。そっち的には学園の影の首領を追い詰めて最終決戦だったわけでしょ。どう決着つけるの? 能力の種明かししてなかったらそれで勝負してもよかったんだけど」
「全然よくないよ」
「今この状況はだれも見てないからここで話し合いで決めてしまって構わないと思うのだけれど……」
結局のところ姉も成り行きで学園を支配してただけで、そんなことににたいして興味はなかったらしい。2人で相談を重ねた結果、私が勝った形にして裏生徒会は崩壊することになった。
それで八方丸く収まったと思っていたのだけれど、支配下にあった人々のうち何名かヤンデレ化して姉(とついでに私)に付きまとってきて、前以上にたいへんなことになったのだけれどそれはまた別の話だ。
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