第8話「笑顔をなくした子供たち」

グレーケル「急いで!イベントが始まる前に、現場の状況を確認するわよ!」


私の号令一下、カラフルプロダクションとらぶ王国の混成チームは、事件の渦中である中央公園へと急行した。

公園に到着した私たちが目にしたのは、一見すると平和で、賑やかな光景だった。

特設ステージの前には、たくさんの親子連れが集まっている。子供たちは風船を手に持ち、走り回り、楽しそうな声が響いている。

だが、私たちはすぐにその「違和感」に気づいた。


ヌヌ「……ねえ、らぶ。あの子たち、笑ってるのに、なんだか全然楽しそうじゃないよ……」


ヌヌくんが、不安そうな顔で呟く。

その通りだった。子供たちの顔には笑顔が浮かんでいる。しかし、そのどれもが、まるで貼り付けたような、感情の伴わない空っぽの笑顔だった。


ベロス「(クンクン……)やっぱりだ……。『嬉しい』とか、『楽しい』っていう、キラキラした匂いが全然しない……。全部、色も味もしない、空っぽの匂いがするよ……」


ベロスの犬並みの嗅覚も、この異常事態を捉えている。

子供たちが手にしている色とりどりの風船も、よく見ればその鮮やかさが失われ、じわじわと灰色に近づいているように見えた。


らぶ「……許せん。断じて許せんのだ……!」


らぶ様は、その光景を目の当たりにして、王として、一人の少年として、静かな怒りに拳を震わせていた。


らぶ「子供たちの笑顔は、国の宝なのだぞ……!それを、こんな……こんな無機質なものに変えてしまうなど……!」


ハート「(タブレットを操作しながら)……公園周辺のSNS投稿、リアルタイムで監視しています。最初は『イベント楽しみ!』というポジティブな投稿が多かったのに、今は『なんだか子供の様子が変』『本当に楽しんでるのかしら?』といった、戸惑いの声が増え始めていますわ……」


レトリバー金「ひゃっはー!こりゃ傑作だ!あたしの開発した“ハッピー残留思念測定器”がガンガン反応してるぜ!この公園一帯の幸福エネルギーが、ステージのある一点に向かって急速に吸い上げられてる!」


場違いに興奮するレトリバー金が取り出した奇妙な機械の針は、確かにステージの方角を指して振り切れていた。

その時、特設ステージのスピーカーから、けたたましいファンファーレが鳴り響いた。


司会者「さーみんな、お待たせしましたー!今、世界で一番ハッピーなユニット!『リトル4リトル』の登場でーす!」


キャーッ!という歓声が上がる。しかし、その歓声すらも、どこか感情がこもっていないように聞こえる。

ステージに現れたのは、四人の少年少女。


グレーケル「あれが、リトル4リトル……」


中央には、常に天使のような笑顔を浮かべている少女、オワン。

彼女の隣で、少し恥ずかしそうに手を振るのは、南国風の少年、ハチ。

ステージの端では、今にも眠ってしまいそうな少年、ネムと、そんな彼をモデルのような立ち姿で支える少年、ロイドの姿があった。

彼らがステージに現れた瞬間、公園の幸福エネルギーが、さらに強く吸い上げられるのを、レトリバー金の機械が示していた。


オワン「みんなー!こんにちはー!今日は私たちと一緒に、もーっともーっと、ハッピーになろっか!」


オワンの可愛らしい声に、子供たちの空っぽの笑顔が、さらに大きく、不気味に広がっていく。

音楽が始まり、リトル4リトルが歌い、踊りだす。

それは、信じられないほどキャッチーで、聞いているだけで心がウキウキしてくるような、完璧なアイドルソングだった。

だが、その歌声が響き渡るにつれて、公園から「色彩」が失われる速度は、ますます加速していく。


ヌヌ「あっ……!」


一人の小さな女の子が、ふらふらと、ヌヌくんのすぐそばにやってきた。その子の手には、もうすっかり灰色になってしまった風船が握られている。

女の子は、何かにぶつかったことにも気づかない様子で、ただ虚ろな目でステージを見つめている。


ヌヌ「……大丈夫?転ばなかった?」


ヌヌくんが優しく声をかける。

女の子は、ゆっくりとヌヌくんの方を向き、にこーっと笑った。瞳には、何の光も宿っていない。


女の子「……たのしいよ」


そう一言だけ呟くと、女の子は再びステージの方へと、ふらふらと歩いて行ってしまった。

ヌヌくんは、その場に立ち尽くしていた。子供の手の温もりが残っているはずなのに、そこから感じたのは、氷のような冷たさだけだった。


ヌヌ「……どうして……。遊んでるのに、楽しくないなんて……そんなの、おかしいよ……」


リトル4リトルのパフォーマンスが、クライマックスに差し掛かる。

オワンが、満面の笑みで大きく手を広げた。


オワン「みんなのハッピー、ぜーんぶ、わたしにちょうだい!」


その瞬間、ステージから目に見えない衝撃波のようなものが放たれ、公園に残っていた最後の色彩と、子供たちの心に残っていた最後の感情の欠片が、完全に吸い尽くされた。

子供たちは、笑顔のまま、ぴたりと動きを止め、ただステージを見つめる、本物の「人形」になってしまった。


らぶ「……もう、見てはいられんのだ……!」


らぶ様が、我慢の限界といった様子で叫ぶ。


グレーケル「ええ。これ以上、好きにはさせない……!目的は、彼らの活動を止めること。でも、観客をパニックに陥らせるわけにはいかないわ。レトリバー!エネルギーを吸収している“核”はどこ!?」


レトリバー金「ステージの真下だ!とんでもないエネルギー反応がある!」


グレーケル「よし……!」


私たちの目の前で、罪のない子供たちの心が、笑顔が、奪われていく。

色を失った公園に、私たちだけが、怒りと決意の色を宿して立っていた。

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