第7話「第一の事件・消える色彩」
ハート「はぁ……。どうせ、わたしなんかが何を言っても、無駄なんでしょうけど……。事件の犯人……もしかしたら、あのリトル4リトルとかいう、新しくデビューしたユニットが怪しい、なんて……誰も思いませんよね……。すみません、忘れてください……」
私の、か細い呟き。
しかし、その一言は、ラウンジの騒がしさを一瞬で凍りつかせるには十分だった。全員の視線が、私――ハートに突き刺さる。
グレーケル「……ハートさん。今、なんて……?リトル4リトル、ですって?」
社長であるグレーケルさんの鋭い声が、沈黙を破った。
し、しまった。裏の顔で夢中になって分析していた情報が、ついネガティブな仮面を突き破って漏れてしまった。
ハート「い、いえ……。わたしなんかの戯言です……。どうせ、なんの根拠もないですし……。聞かなかったことに……うぅ……」
慌てていつものネガティブな自分を取り繕う。しかし、一度食いついたカラフルプロの社長は、そう簡単には離してくれない。
グレーケル「いいえ、聞かせてもらうわ。あなたがあえて口にしたということは、何か掴んでいるんでしょう?」
らぶ「うむ!ハートよ、知っていることがあるなら話すのだ!王の命令だぞ!」
ヌヌ「ハートちゃん、すごい!何か分かったの!?」
ヌヌ様までが、キラキラした純粋な瞳で私を見つめてくる。あぅ……そんな目で見られたら、話さないわけにはいかないじゃないですか……。
ハート「はぁ……。仕方ありませんね……。あくまで、わたしの憶測、ですけど……」
私はおずおずと、自分のタブレットを取り出した。
ハート「SNSで、今回の『笑顔が消える事件』に関する投稿を調べていたんです……。どうせ、わたしにはネットくらいしか友達がいませんから……。そうしたら、被害が報告されている場所と時間に、奇妙な共通点があることに気づいて……」
画面には、地図とタイムラインを重ね合わせた分析データが表示されている。
ハート「そのすべてで、新人アイドルユニット『リトル4リトル』が、ゲリラライブやプロモーション活動を行っていたんです……。彼らが現れると、その場の『楽しい』という熱狂が最高潮に達し……そして、その直後から、人々は感情を失った人形のようになる……。まるで、観客の“ハッピー”を、根こそぎ吸い取っているみたいに……」
レトリバー金「……ほう。面白い仮説じゃないか」
いつの間にかラウンジに来ていたレトリバー金が、興味深そうに私のタブレットを覗き込む。
レトリバー金「あたしの分析と一致する。特定の場所に集まった人間の幸福感が、何らかの形でエネルギーとして収集されている……。そのユニットが、エネルギーを集めるための“装置”というわけか」
グレーケル「リトル4リトル……。確か、最近急激に人気が出てきたユニットね。メンバーは……いつも笑っている不思議な少女、オワン 。南国から来た照れ屋のハチ 。いつも眠そうなネム 。そして、ネムの世話を焼いているセクシー系のロイド ……。確かに、個性的ではあるけれど……」
ヌヌ「僕、テレビで見たことあるよ!みんなキラキラしてて、楽しそうだったけどなあ……」
ヌヌ様は、信じられない、という顔をしている。
そう、それが彼らの罠。最高の笑顔で人々を魅了し、その裏で、最も大切なものを奪っていく。
らぶ「許せんのだ!民の笑顔を奪うなど、王として断じて許すことはできん!」
グレーケル「ええ。それに、私たちの縄張りで好き勝手させるわけにはいかないわ。カラフルプロダクションの誇りにかけて、この事件、解決するわよ!」
皆の心が一つになった、その時だった。
ベロス「……あれ?お姉ちゃん、見て!」
ベロスが、窓の外を指さした。
事務所の窓からは、手入れの行き届いた花壇が見える。赤、黄、青、ピンク……色とりどりの花々が、午後の光を浴びて鮮やかに咲き誇っていた。
だが。
ヌヌ「……お花の色が……」
花々の、その鮮やかな色彩が、まるで水彩絵の具を水で薄めていくように、すぅーっと輪郭から消えていく。
赤は淡いピンクになり、やがて灰色に。
黄色はクリーム色になり、そして白黒に。
ほんの数秒の間に、あれほど生命力に満ち溢れていた花壇は、まるで古いモノクロ映画のワンシーンのように、すべての色を失ってしまった。
グレーケル「なっ……!?」
らぶ「花の色が……消えた……?」
ハート「そんな……。人の感情だけじゃなく、世界の“色彩”まで……!?」
目の前で起きた、あまりにも非現実的な光景。
これは、ただの精神エネルギーの消失ではない。
世界そのものを、無機質なモノクロの世界に作り変えようとする、恐ろしい侵略。
グレーケル「……もう、迷っている時間はないようね」
彼女の声は、怒りと決意に満ちていた。
グレーケル「全員、準備しなさい!これから、リトル4リトルの次の活動場所へ向かうわよ!」
ハート「次の場所は、突き止めてあります……。中央公園です。一時間後、そこで大規模なファンイベントが開かれる、と……」
らぶ「よし、行くのだぞ、ヌヌ!」
ヌヌ「うん!みんなの笑顔と色、僕たちが絶対に取り戻すんだ!」
色を失った花壇を背に、私たちの最初の戦いが、今、始まろうとしていた。
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