第9話「影より生まれし復讐者」

グレーケル「レトリバー!エネルギーを吸収している“核”はどこ!?」


レトリバー金「ステージの真下だ!とんでもないエネルギー反応がある!」


リトル4リトルのパフォーマンスが終わり、ステージは静寂に包まれている。しかし、公園は異様な空気に満ちていた。笑顔のまま動きを止めた子供たち。その光景は、私たちの決意をより一層固くさせる。


らぶ「僕様が行くのだ!あのような悪党、この手で!」


グレーケル「待って、らぶ様!むやみに突っ込めば、観客を危険に晒すことになるわ。ここは冷静にいきましょう」


私は暴走しがちな王様を制止する。


グレーケル「私とらぶ様、ハートさんで裏からステージ下に潜入し、エネルギーの核を無力化する。ヌヌくんとベロス、レトリバーはここで待機。観客の様子を監視し、いざという時のバックアップをお願い」


ヌヌ「わかった!らぶのこと、お願いね、グレーケルさん!」


らぶ「む……。仕方ないのだ。グレーケルの作戦に従おう。だが、僕様の民に何かあれば、その時は……!」


私たちは頷き合うと、人ごみに紛れてステージの裏手へと回り込んだ。


ハート「(タブレットを操作しながら)……ステージの設営データ、見つけました。裏手の資材搬入口から、地下メンテナンス通路へアクセスできるはずですわ……」


さすがはハートさんね。彼女の情報収集能力は、こういう時に本当に頼りになる。

私たちはハートさんの案内に従い、薄暗いメンテナンス通路へと足を踏み入れた。ひんやりとした空気が肌を撫でる。通路の奥から、微かな光と、話し声が聞こえてきた。


その頃、リトル4リトルの楽屋では、メンバーたちがステージの成功を喜んでいた。


ハチ「はぁ~、今日のライブも盛り上がったなー!みんなの笑顔、すごかった!」


ロイド「まあ、僕のセクシーなパフォーマンスにかかれば、当然の結果さ。……おいネム、いつまで寝てるんだ」


ネム「んぅ……。終わったの……?じゃあ、帰っていい……?」


三人がいつも通りの会話を繰り広げる中、リーダーのオワンだけは、部屋の隅で静かに一点を見つめていた。

彼女が見つめる先には、ステージの床に埋め込まれた特殊な装置と、その中央で淡い光を放つ水晶のような球体があった。公園から吸い上げられた“幸福エネルギー”の結晶だ。


オワン「うふふ……。見て、こんなにたくさん。キラキラしてて、とっても綺麗……」


彼女は、うっとりとその光の球体を撫でる。その笑顔は、ステージの上で見せた天使のような笑顔と同じ。しかし、その瞳の奥には、光とは正反対の、底なしの闇が揺らめいていた。


オワン「たくさんのハッピー……。たくさんの笑顔……。でもね、こんなもの、とっても脆いの」


彼女の指が、光の球体を、きゅっと掴む。


オワン「ちょっと力を加えるだけで、ぜーんぶ、なくなっちゃう。パチン、って。……あの人たちみたいに」


その言葉は、誰に聞かせるでもなく、ただ冷たく空間に響いた。

幸せも、笑顔も、命も、すべてはあまりに儚く、簡単に壊れてしまう。

この世界は、そういう理不尽で出来ている。

ならば――。


オワン「うふふふ……」


――ならば、すべての幸せを、この手で。


通路の角から、私たちはその光景を目の当たりにした。

地下の空間に設置された巨大な機械。そして、その中央で輝く光の球体を、恍惚の表情で見つめる少女、オワン。


らぶ「あれが、エネルギーの核……!そして、オワン……!」


グレーケル「なんて禍々しい装置なの……。そして、あの子……」


その時、オワンが、まるで私たちの存在にずっと前から気づいていたかのように、ゆっくりとこちらを振り返った。

その笑顔は、寸分違わず完璧なアイドルのまま。


オワン「あら、お客さん?うふふ、こんなところまで、どうしたの?」


ハート「あなたたちが、この事件の犯人……なのですね……?」


ハートさんが、震える声で問う。


オワン「犯人?違うよ。わたしは、みんなを“平等”にしてあげてるだけ」


彼女は、光の球体を愛おしそうに抱きしめた。


オワン「わたしね、決めたの。この世界のハッピーを、ぜーんぶ集めて……ぜーんぶ、壊しちゃうの。そしたら、誰も悲しい思いをしなくて済むでしょ?みんな、わたしと一緒。空っぽで、平等になれるんだよ」


その言葉に、私たちは息を呑んだ。

これは、ただの悪戯じゃない。歪んだ、あまりにも悲しい復讐。

影より生まれし復讐者の、世界に対する宣戦布告。


グレーケル「あなた、正気なの……!?」


オワン「正気だよ?とっても、ね。だって、わたしはもうずっと昔に、壊れちゃったから」


彼女はくすくすと笑うと、光の球体に両手をかざした。


オワン「あなたたちも、わたしのコレクションになる?それとも、このハッピーと一緒に、壊れちゃう?」


オワンの瞳が、初めて笑顔以外の色――純粋な“殺意”に染まる。

まずい。彼女は、集めたエネルギーを暴走させる気だ!


オワン「きゃははっ!さあ、選んで!わたしの復讐の、最初の観客さんたち!」


絶望的な光が、私たちの目の前で膨れ上がっていく。

私たちは、あまりにも無力な観客として、その光景をただ見つめることしかできなかった。

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