【二次創作】強襲、百韻作戦
カクヨムSF研@非公式
520秒まえ
〈雪ながら山本かすむ
「アルフェラッツ星系政府より、本作戦の決行は銀河標準時【アンドロメダ銀河標準時】十八時○○分である。これより、
なんてばかばかしい作戦だとイルミナは思った。
ブロックチェーン化した高密度の情報を、共算主義者の計算限界を超えたシリアル信号で送りつけ、これを
しかし我々は一を全にする。上層部の頭のいい連中は考えた。百韻作戦を並行政府による一斉攻勢を仕掛ける。つまり、全銀河系の共算主義者の一斉殲滅を仕掛けるのだ。胸の下がざわつく。震える手を抑えて、前を向いた。
〈行く水遠く梅にほふ里〉
イルミナが生まれたときには、もうすでに古典的な意味での人類はとうに絶滅していた。多くの
イルミナが目覚めたときには、すでに
数多の戦争で、共算主義者との戦いは過熱した。そのたびにログは複線化、重層化し、さまざまな
時代は移ろう。イルミナの個人史など、ひとつの点に過ぎない。
〈川風に一むら柳春見えて〉
亡霊たちを川の間際で見た。
イルミナが彼らを見たのは六つのときであった。ただそれが情報として「分かる」程度のことで、彼らは黒塗りの情報として認識され、この世では語ることすら禁じられた人々だった。不気味で
深い、あまりに深い、闇が口を開いた。思弁国会図書館ライブラリを引くよりも先にイルミナの口から出た「
〈舟さす音もしるき明け方〉
太陽は失われている。いや、その光を人類が失って久しい。見上げれば、太陽と言えばその情報としての太陽は見える。しかし、昔の人々が五感した太陽はどこにもない。イルミナだって太陽くらいは知っている。歴史の教科書に載っている太陽系の恒星である。イルミナの手には、いや人類の手には多くの情報が、いくらでも思弁国会図書館で手に入った。リアルらしいアンリアルも、アンリアルでもリアルでもないリアルも、何でも手に入ったが、
本物のない、本物の感情もないリアルだけが、ただ空しかった。いつもだれか二人に焦がれている自分がいた。
イルミナだって分かっていた。ここには本当なんてひとつもなかった。自分と同じ情報しかなかった。明け方を待つことさえ禁じられていた。そう思うとふと共算主義者たちが微笑みかけてきた。もっとも、共算主義者たちの強い思念か怨念のようなものであった。あちら側へ行けばいい? そう思って悪夢にうなされていた。
アルフェラッツ政府の百韻作戦の決行日、イルミナは電子政府の司令所に、共算主義者のパンドラの箱をひとつ持って現れた。
心を共算主義に則られたイルミナは、いま百韻作戦の開始、五二〇秒まえに現れた。ここに百韻作戦の
〈月やなほ霧わたる夜に残るらむ〉
いま、イルミナが見ているのは月だった。
月は、異界の門を
フォボスとダイモスが見えた。
火星圏日本政府が捉えた、百韻作戦開始時間には、コンマ二秒の短い空白時間があった。すべての銀河系の電子政府が、この時間のあいだで、共算主義者による反乱を捉えたと後の作戦記録書には記されている。
共算主義者たちによって心を支配されたイルミナは、深い闇のなかで共鳴する幾つもの孤独な魂を見ていた。
彼らは生まれたばかりの思想を持っていた最初の人間だった。イルミナたちには共有するビジョンがあった。彼らが連帯したとき
これから予測されるフォボスとダイモスの軌道は、
紙本主義者の記す
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