夏を割る

@mimicmimi

第1話

空をすすむと、夏があった。


たまらない夏が、がんがん鳴る耳から切り取られる音と、水たまりにうつる雲によって伝えられている。それがわたしの、夏だった。


まだ雨に濡れた道を歩いていく。トラックの轍は徐々に流されて、原形をうしないつつあった。舗装されていない砂の道の真ん中に、空を仰ぐ蝉が転がっていた。


わたしが一歩踏み出すと、そのたびにさり、と擦れて地面がきしむ。

足裏に、砂粒が動く感覚がある。泥から脱した砂粒たち。ふくらはぎに飛び散って、歩いているうち、徐々に乾いて落ちていく。


道は真っすぐに何マイルも続いていて、轍もまたずっと遠くまで伸びていた。


雨はあがったばかりだ。徐々に水を締めだしていく砂の道。

道の端は依然として濁った泥水がたまっており、暗い森に流れていた。


なにかはじまる音と確信だけそこにあった。

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