第88話 泰米
久々の休日を仲間たちとの金太郎電鉄で楽しく過ごしたおれとクマイは、翌日からついに鉄道会社を設立するための具体的な動きに入り始めた。オヤジから出資も受けたし、そろそろ和田サンに現実世界側の会社を設立してもらう事に決めた。和田サンにメールを入れてから、具体的な話をするためにおれとクマイ、そしてウサギの3名で現実世界へと向かうことにした。
「この人数だと、ジムニーが機動力があっていいですねぇ!」
「基本的にはオフロードだからな!」
ウサギはジムニーが好きらしく、ジムニーで行くと言ったら「僕が運転するよ!」と妙に積極的にハンドルを握った。ウサギらしくジャンプするのが好きらしく、オフロードで飛ばしてジムニーが跳ねるのが楽しいらしかった。これは
「ジムニーはラダーフレーム構造だし、一般乗用車に比べてサスペンションが硬いから、ガクガクしますねぇ……」
「クマイさん、それどういう事?」
ハンドルを握り、若干血走った眼でアクセルをふかしながらウサギが質問した。意外とウサギはスピード狂なのかな?とおれは思った。
「通常の自動車は「モノコック構造」といって車体そのものが強度を持った構造体になっていて、かつ舗装路での走行安定性と乗り心地の向上のために最適化されたサスペンションなんです。でも、ジムニーは悪路走行のために「ラダーフレーム」と呼ばれる頑丈な台枠の上にボディが乗っている構造なんです。しかもサスペンションはあくまで悪路走破性を重視しているので乗り心地はそこまで重視されてないんですよ!だからオフロードにはメチャクチャ強いですが乗り心地はガクガクしてるわけです!」
「なるほど、流石にくわしいね!」
「でも、鉄道の知識にくらべたらごく一般的な事しか知らないんですよ……」
「しかし、ウサちゃん、もう少し安全運転で頼むぜ」
そうこう言ううちにジムニーは平野を走り抜け、勇者の泉を通って白旗神社へとたどり着いた。
「神社へ来るのも、久しぶりだぜ……」
「そうですねぇ…」
「異世界転出法でドラクエ世界に戻って以来かなぁ。」
久しぶりに来たので、本殿前で3人で二礼したのちに柏手を打ち、一礼して振り返ると後ろに和田サンがいた。
「どうぶつ達、久しぶりじゃな! 元気そうじゃのう!」
「和田サ……さんも元気そうで良かったぜ!」
「お久しぶりですねぇ!」
「ご無沙汰してました!」
もうカタカナ表記にしたり、しかかったりしても、いい加減突っ込まなくなってきた和田さんに言われておれたちは社務所の座敷に上がった。
「向こうではWi-Fiも通じるようになってきて、そのうち熊村さんが4Gも通してくれる話になってるぜ! それで、今日はそろそろ現実世界側をどうするか相談しようと思ってるんだ。」
「実は、
そう言うと、和田さんは会社の登記簿を見せてくれた。(株)和田ロジスティックスと書いてあり、事業内容は物流や販売などの一般的事項が記入されていた。
「物流センターに偽装すれば、トラックが出入りしても不審ではないかと思ってのぅ!」
「さすがは和田サンだぜ! 仕事が早くて助かるぜ。」
「ひらがな表記で頼むぞ……」
やっぱりお約束と言うのは、ツッコミが入った方が謎の安心感があっていいな、とおれは密かに思った。クマイもウサギもツッコミがあってホッとしたような顔をしていた。
「ボク側の要望としては、できるだけ長さのある建物を建てて頂いて、建屋の中に線路を敷設したいと思います。天井には天井クレーンを配置して迅速に積み替えが出来るようにしたいですし、あとはフォークリフトを動かすスペースが欲しいです。」
「国道から大型トラックが複数台出入りが出来るように、ある程度の駐車場とロータリーを確保した方がいいのぅ。」
「トラックの運転手に秘密がバレないように、列車が見えないようにする工夫が必要じゃないかな?」
和田さんやウサギも熱心に議論に参加してくれている。時間を忘れて白熱した議論を続けていたが、気づくと時間は昼の12時を回っていた。
「昼食なら、出前を取っておいたぞ!」
「和田さん、どうもすみません!」
タイミングよく出前がやってきた。
「和田さん、いつもおおおきに!
どこかで聞いたような関西弁だなと思いながら玄関にでてみると、油壷どうぶつホテルの
「なんや! クロイさんじゃないですか!」
「狸崎さん!」
「つい先日、鎌倉に行ってクロジさんの店で食べてきたばかりですわ!」
「あ!それはどうも有難うございました。」
気づいたクマイやウサギたちも集まってくる。
「これはビックリしました!」
「野菜のお刺身、思い出すなぁ!」
「ところで、クロイさん、出張に行ってるてクロジさんに聞きましたけど…」
「あ、ああ、ちょっと和田サンの所に長逗留しててな!(汗)」
突然突っ込まれておれは焦ってしまった。三浦くらいなら鎌倉から日帰りで行き来できるので、なんか不自然に思われないかとおれは焦った。
「あ、そういうえば、なんかええ蕎麦粉見つけたてクロジさんが言うてましたけど、ワテにも少し分けてもらえまへんか?」
「お、おう! 取りあえずサンプル送るようにクロジに言っておくぜ!」
クロジも商売熱心なのはいい事だが、いろいろ突っ込まれて異世界のことがバレないか肝が冷えた。だが、同時に
「とりあえず、こちらを食べて下さい。ご飯はいまから炊きますから。」
「弁当じゃないのかよ!」
「
そういうと料理長はおかずやサラダの入った重箱を配り、部屋の端にお盆のようなものを敷いてカセットコンロで土鍋ご飯を炊き始めた。
「珍しいサービスですねぇ!」
「ちょっと値が張るが、せっかくみんなが集まるから奮発したぞ!」
和田さんの計らいで炊きたてのご飯が食べられることになった。狸崎料理長は土鍋の前に陣取ると、時々蓋を開けたり閉めたりして、具材を後から足したり、タレのようなものを注いだりしていた。
「普通は「赤子泣いても蓋とるな」と言いますが、なんか忙しいですねぇ。」
「匂いからすると、どうも日本料理じゃないみたいだな…」
「楽しみだね!」
そういいながら、おれたちは重箱の中の焼き魚やサラダ、酢豚などのおかず類を楽しんだ。ウサギも肉抜きの酢豚や、ゴーヤチャンプルーを堪能しているようだ。
「炊けましたでぇ!」
そういうと狸崎料理長は土鍋を開けて、中のご飯を茶碗に取り分けた。おれたちの茶碗にはサラミソーセージのような肉がはいり、ウサギの茶碗には人参とチンゲン菜が入っている。なにかいつもの米とは違ういい香りがした。
「
土鍋ご飯はたっぷりのおこげに後からいれたタレがかかっていて、日本の炊き込みご飯とはまた違った雰囲気だった。
「おこげが、美味しいですねぇ!!」
「中華風のサラミが旨いぜ!」
「チンゲン菜とニンジンの火の通り方が絶妙だね!」
どうやら狸崎さんは、具材によって鍋に入れる時間を変えて、火の通り具合を調節して野菜の食感を残した炊き込みご飯にしているようだ。
「これ、いつも食べてるお米と違いますねぇ…」
「長粒種っぽいね!」
「これ、タイ米とかそいうやつか!?」
おれたちの疑問に「待ってました」と言わんばかりに食い気味で狸崎料理長が答えた。
「これはタイ産のジャスミン米ですわ! パラりとした食感で、おこげが軽くサクサクと仕上がるんで、
「今回も、料理の
「ああ、読者からも蒲焼の回を読んで鰻丼ウーバーしたって声が届いてるぜ!」
などと結局またメタ発言を繰り返しながら、おれたちは特製ランチを心ゆくまで堪能したのだった。
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