第84話 動画

 僕とスライム、メタルスライムは城に着くと、クロイさんがローラ姫のウサギから借りている裏口の扉を開けて城に入った。裏口の警備兵もクロイさんがちょっとゴールドを握らせているので、何も言わずにスライムたちを通してくれるようになっている。


 部屋に戻ると、ちょうどクマイさんたちが夜間工事に備えて夕方の仮眠をとって居るところだった。起こすとまずいなと思った僕は静かに自室に戻った。スライムとメタルスムには、空いた木箱にクッションを入れて休めるようにしてやると、僕も疲れのせいかすぐに眠りに落ちてしまった。3人(?)とも、昼間の疲れや、車酔いの疲れからぐっすりと眠りこんでしまった。


 …………………………………………


 目覚めた僕は、仮眠してクマイさんたちの作業を手伝いに行こうと思っていたのだが、気づいたら完全に朝になってしまっていた。朝、目覚めて城の塔を見ると、塔の横に何か棒のようなものが立っていて、その先に何やら見たことのない物体がついていた。


 「あれが、クマイさんが言っていたアンテナって奴なのかな…」


 そう僕はひとちた。自分のスマホをみると、しっかりとインターネットに接続されていることが分かった。おそらく、クマイさんたちは夜間工事の疲れで眠っているだろうから、起こさないように静かに朝食のどんぐりパンとサラダを食べた。


 スライムたちにも残っていた蕎麦湯と「丹沢の銘水」の朝食(?)を渡して、取りあえず今日何をしようかと考えてみた。とにかく、インターネットに接続できたのだから、それを利用して何かできないだろうかと考えた。結果、とりあえず工事が終わったようだから、それをローラ姫のウサギに伝えておくのもいいかな、と考えた。


 在庫の中古スマホや中古タブレットの中から状態の良いものを1つづつ選んで、Wi-Fi接続をためしてみて動作を確認した。よさげな物が見つかったので、これを持って姫の部屋に行ってみる事にした。


 「姫様、どうやらインターネットの工事が完了したようでございます。」

 「そうなの。それで、具体的にどんなことが出来るの?」

 「こちらに、スマートフォンと液晶タブレットを持ってきました、これで色々なものを見ることができます。」


 僕は試しにタブレットからDouTubeという、現実世界でどうぶつ達がいろいろなもの配信している動画サイトを開いた。取りあえず知っている人がいいかな、と思って「トラットリア・クロジのサイエンスクッキング」というチャンネルを開いてみた。


 ここでは、クロジさんとクマイさんが科学的な蘊蓄うんちくをたれながら、ひたすら理屈っぽく料理を作る動画を配信している。タンパク質が固まる温度が何度だとか、塩水にいれると浸透圧がどうだとか、半透膜を使って脱水するとどうなるかとか、酵素によってタンパク質が分解されて柔らかくなる、などなど、理科の授業のような料理勉強チャンネルなのだ。動画の中ではクロジさんとクマイさんが熱心に喋っている。


 「…と、言う事で63℃ で30分、あるいは72℃~78℃で15秒間加熱することで、細菌が死滅すると言われているんだ!」

 「でも、これ63℃のお湯に30分漬けたらいいわけじゃないですよねぇ?」

 「そうなんだ、中心温度が63℃に達しないと、表面だけではダメだよ!」

 「肉類の熱伝導率は、水よりも低いですから、十分な時間が必要ですよねぇ!」

 「だから、低温調理と言っても中心まで75℃くらいになってないと危険なんだよ。こういう熱による殺菌処理を「パスチャライゼーション」と言うんだ!」

 「これは、「細菌学の祖」とよばれる、ルイ・パスツールの名前に由来してるんですねぇ!」


 ローラ姫のウサギは動画を熱心にみていたが、やがてポツリとつぶやいた。 


 「なんだか理屈っぽいところが鼻につくけど、そこがクセになる感じの番組ね…」


 他にもドラマや映画など様々なコンテンツが見られると教えると、いろいろと検索をして食い入るように見ている。


 「今のところ、こういった現実世界のコンテンツをいきなり市民たちに見せるのは危険だとクロイが申しておりました。ですので、今のところこういったものが見れるのは、姫様だけです…」

 「そうなの、確かにこちらの世界とあまりに違う世界をいきなり見せるのは良くないわね…」

 「ですので、こういったコンテンツを住民たちが自分で作って、投稿できるようなシステムを今後構築していきたいと考えております。」

 「そんな事まで出来るのね…」


 ローラ姫のウサギも感心すると同時に、僕たちの事業にますます関心を持ってくれたようだ。とりあえず、こんな感じで地道にスマホの利便性とかを普及させていこうかな、と僕は思った。


 その後、部屋に戻るとクロイさん達も起きてきたようだった。


 「おはよう! 昨日はお疲れさまでした!」

 「おう~ウサちゃん! 夜勤明けの朝はやっぱりキツいぜ…、ところで、メタルスライムは見つかったのか?」

 「見つかったよ! 取りあえずは現場を見てから参加するかどうか決めるって言ってた。」

 「その方がいいよな、後で話が違った、とかいうのも面倒だぜ…」


 クマイさんも夜勤明けで眠そうにしている。


 「あ、ウサギさん、どうもお疲れ様です!」

 「クマイさんこそ夜勤、お疲れ様!」


 熊村さんも眠そうな顔をしていた。今日は工事が完了したので休みになっているようで、みんなそれぞれ寛いでいる。インターネットも通じるようになったので好きな動画を見たり、自室のベッドでゴロゴロしたりしている。


 そういえば、メタルスライムを紹介しないとな、と思った僕は自室に戻り、スライムとメタルスライムに声をかけた。


 「キー! キー!」

 「おう、おれはクロイって名前のツキノワグマだ! よろしく頼むぜ!」

 「ボクはクマイと申します。よろしくお願いいたします!」

 「私は熊村と言います。今後ともよろしく!」


 こんな感じでまた一人(?)メンバーが増えて僕たちのチームは大きくなっていった。チームが成長していくのはなんだか楽しい。全体としての活力が高まっているような、そんな感じを覚えた。

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