第83話 四駆

 クロイさんが丹沢に出資依頼に行ったのと前後して、僕ことロトのウサギと、スライムは鉱山専門家メタルスライム探しに向かった。メタルスライムはサマルトリア城から少し南にある、ローラの門という洞窟をくぐってその先のムーンペタという街の近くあたりにいるはずだった。


 昔だったら何日もかけて歩かなければいけない道のりだが、僕たちは砂漠や山岳用に手に入れたスズキ・ジムニーに乗っているので、1時間ちょっとでローラの門についた。最近、クマイさんに説明してもらって、商用バンと軽四輪というのが車の種類、つまり「車種」を意味していて、トヨタやスズキはメーカーの名前、ハイエースやジムニーというのは商品名だという事がわかってきた。


 「まあ、モンスターという括りの中で、スライムという種族がいて、その中に普通のスライムやメタルスライム、バブルスライムなど種類があるようなものですねぇ。」


 クマイさんはそう説明してくれた。なかなかわかりやすい説明で、クマイさんらしいなと僕は思ったのだった。そんな四方山話よもやまばなしをスライムとしているうちに、車はローラの門についた。


 「こんちは! 勇者のウサギです!」


 僕はローラの門の警備兵に挨拶した。


 「お疲れ様です、お通りですか?」

 「うん、そうなんだけど、あそこに見える白い車輪がついた奴を通したいんだけど…」

 「サイズ的には通りそうですが、この階段はどうかなぁ…」


 そんなこんな話しあっていると、スライムがキイキイ言っているのに気づいた。また何か知恵を出してくれるのかと思って、僕は例によってスライムにそっと触れた。


 「なるほど!!」


 スライムのアイデアを聞いた僕は、さっそく車のトランクをあけた。クロジさんが買ってきてくれた中古のジムニーは前のユーザーがヘビーデューティー過酷な使い方仕様が好きだったらしく、前後にウインチがついていた。


 僕は前側のウインチをワイヤーを繰り出すと大木にきちんと固定し、ゆっくりとワイヤーを伸ばしながらバックでローラの門の階段に向かった。見たことのないものを見てぼう然としている警備兵に一通り説明して、僕はウインチをゆっくりと伸ばしながらバックでジムニーをおろし始めた。少しずつゆっくりと階段を下りて行くが、一段下りる度に車はガタガタと大きく揺れた。ようやく階段をおり切ると、あっけに取られている警備兵に別れを告げて僕とスライムはローラの門の洞窟の中をジムニーで走り出した。


 ローラの門の中は、まるで人工的に作ったトンネルであるかのようにまっすぐで、なんだか不思議な感じの洞窟だった。


 「なんだか、このまま鉄道が通せそうだな…」


 そんな独り言をいいながら、僕はローラの門を通過し、再びウインチを使って出口の階段を上ってムーンブルク方面へと向かったのだった。メタルスライムは丘陵地帯によくいるので、僕とスライムはジムニーを降りて、徒歩で丘陵地帯をうろついてみた。


 「メタルスライムが、あらわれた!」


 メッセージと共に、画面が戦闘モードに切り替わり、BGMも流れてきた。


 「メタルスライムは、逃げ出した!!」


 メタルスライムは挨拶をする暇もなく逃げ出し、どこからへともなく、消えてしまった。

 

 「やっぱり、こういうパターンか…」

 「キイキイ!!」


 スライムがまた何か思いついたらしいので、僕はまたスライムに手を当てて考えを確認した。


 「なるほど、そういう作戦か…」


 スライムの作戦で、僕たちは少し離れて再び歩き出した。


 「メタルスライムが、あらわれた!」


 再び、同様のメッセージと共に画面が戦闘モードに切り替わり、すっかり聞きなれた戦闘のBGMが流れてきた。


 「メタルスライムは、逃げ出した!!」

 「しかし、まわりこまれてしまった!!」


 少し離れた場所にいたスライムが、メタルスライムの退路をふさいでいたのだった。スライムがメタルスライムに話しかけ、いろいろと説明しているようだった。


 「キイキイ!!」

 「キー!キー!」


 メタルスライムは、スライムと比べると高い音で、金属音のような音で鳴くようだ。いずれにしてもモンスター同士で近い種族なので、話して貰えると有り難い。僕はとりあえず様子を見て、話がまとまるのを待った。


 とりあえず、ひと段落してスライムがこちらを振り向いてキイキイ言った。だんだんスライムが何を言っているのか察せられるようになってきた僕は、メタルスライムに手を触れて意志を確認してみた。


 どうやら、「とにかく行って現場を見てみないとわからない」、という事で、しばらくは僕たちのプロジェクトにつき合ってくれるようなので、取りあえず一緒に来てもらってしばらく一緒に行動してもらい、理解を深めてもらうことにした。その上で条件が折り合わなければ仕方ないので、まずは見てもらうしかない。


 「もし、条件が折り合わなければそれでいいからさ、途中で逃げるのはやめてくれよ。来てくれた分の日当も渡すからさ!」


 そう言ってメタルスライムにジムニーの後部座席に乗ってもらうと、僕はローレシア城めざして安全運転で走り出した。どうも、スライムはメタルスライムに、「現実世界の自動車は早くて凄いだろう」と言っているようだった。丘陵地帯の移動と、はじめての自動車でメタルスライムが車酔いを起こしてしまったようで、はぐれメタルのように泡を吹き始めたため、途中で休むことしにた。


 スライムがメタルスライムを介抱すると少し良くなったようで、僕も更にスピードを落としながら丘陵地帯を抜けた。平地にうつるとだいぶ良くなってきたようで、カーブも少なくなったので快調にすすみ、日没前にはローレシア城に着くことができた。






 

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