第70話 両親
「ゔ~~ん!!」
早く寝ようと思っていたのに、クマ達の酒盛りに参加してしまった僕とスライムは寝坊してしまった。そして、野生の咆哮とともに、予定していた明け方をだいぶ過ぎてから起き出した。
「あ、しまった! 見つからないように明け方に出発するはずだったのに!」
「キイキイ(眠)」
「いつものように箱に入れて出せばいいじゃねえか。」
「ボクたちが工事に出るときに運びますよ!」
工事が始まって以来、資材と称して持ち出すので箱を持っていても特に咎められることはなくなった。今日の朝ごはんは蕎麦だった。クロイさんが現実世界に戻った時に調理器具や小麦粉を買ってきたので、今朝は二八蕎麦だった。
「やっぱりおれは二八蕎麦の食感とのど越しが好きだぜ…」
「たしかに、十割蕎麦はボソボソしてる感じがありますねぇ。」
「キイキイ」
スライムは今朝も冷ました蕎麦湯を飲んでいる。
「異世界に来て蕎麦を食べるってのも不思議な気分ですね。」
そんなことを言いながら、熊村さんも美味しそうに蕎麦をすすっている。
「キイキイ」
「朝から蕎麦湯を飲むと調子がいいんですか。それはいいですねぇ。」
スライムとクマイさんが
「ウサちゃん、今回の需要調査はおれ達のプロジェクトにとって本当に重要なんだ。他の街の
「うん、あと現状での移動にかかるコストや時間だよね。」
「そうだ。現状彼らが移動するのにかかる日数や、物を送るのにかかっている費用を調べて、それに勝てる値段にすれば、おれ達のビジネスはきっとうまくいく。」
「よし!!」
蕎麦を食べ終わった僕たちは、クロジくんが手配してくれた商用バンに乗って移動を始めた。クロイさんとスライムが出会った付近まで来て、僕とスライムは車をおりた。
「じゃあ、しっかり頼むぜ!」
「気を付けて行ってくださいねぇ!」
「お疲れ様です!ご安全に!」
他のみんなは、今日も通信ラインの工事作業に行く予定だ。正直、工事ににはあまり興味が持てなかった僕は、この仕事の方が向いてるかもしれないな、と思っていた。あと、熊村さんは朝昼晩関係なく、挨拶が「ご安全に!」なのは不思議だなと思っている。
スライムの案内に従って山地に入っていくと、小さな洞窟が見えた。勇者の泉のようなある程度の大きさと分岐がある洞窟ではなく、本当に小さなクマの冬眠用の穴のようなサイズの洞窟だった。
「キイキイ」
スライムが呼ぶと、中から2人(?)のスライムが出てきた。この人たちがスライムの両親なのだろうか。3人でキイキイ言い合っている。これまでのいきさつを説明しているのかな、と僕は思った。
なんだか、だいぶ長引いているようなので、僕はスライムに「ちょっと触るよ」と声をかけてから手を触れてみた。
「オヤ、ハンタイ!」
どうも親御さんはスライムが僕たちと一緒に行くことに反対なようなのだ。ちょっと前までは普通に殺し合っていた勇者とスライムの関係なのだから、親御さんが反対する気持ちもわかる。
その後もスライムの家族会議は続いているようだった。僕は、すこしこちらの方から事情を説明してみようかと思い、スライムにそう語りかけてみた。
スライムも同意してくれたので、僕はスライムのご両親に「少し説明させてください。」と言ってから触れてみた。そして、クロイさんとクマイさんという異世界から来たクマが偶然、スライムにあったこと。その時スライムは重傷で、クロイさんの救助と、クマイさんの必死の看病で良くなったこと。彼らの尽力で住民の迫害から逃れ、なんとかローラ姫のウサギに許可をもらって城に居られるようにしたこと。自分も看病を手伝ううちにスライムと打ち解けてきたことなどを伝えた。
そして、今後はスライムの自由意思に任せるし、仮に僕たちと一緒に行動するとしてもスライムの好きな時にご両親のところに帰れることを約束した。もちろん、その提案をクマイさんからしたことも説明した。
そのあと、再びスライムの家族会議が始まり。
結果としては、大筋て納得できて、本人もやる気があるから、本人の思うとおりにさせたい、ただ、一度そのクマとやらに会わせてくれ、という事だった。僕は自分が勇者としてスライムたちモンスターと殺し合う関係だったことや、クマ達と出会ったことでスライムとの関係が良くなったことなどを説明した。
「そうそう、これ、クロイさんというクマから、ご両親へと…」
そういって僕は「丹沢の銘水」をご両親に渡した。
「キイキイ(
スライムが飲むようにすすめ、スライムのお父さんが「丹沢の銘水」を飲んだ。なにやらびっくりしたような顔をして、奥さんにもすすめている。どうやら気に入ってくれているようだ。
ついでに、「こちら、もしお怪我などされた時に…」といって「ジェルバンB」も5箱ほど渡した。「1日一回張り替えていただくと、小さな傷でしたら治ります。もし大変な方がいたら僕に言ってくれればクマイさんを紹介しますので。」とも言い添えた。スライムは、クマイさんがどうやって自分を手当てしたかを説明しているようだった。
これらの話を聞いたご両親は、それほどまでに手厚くして頂いたのであれば、一度クマさんたちにこちらからご挨拶に行かなければ…と言っている。僕は彼らがいそうな場所、昼間なら通信ラインの工事予定地や、夜ならばローレシア城などを教えた。ただ、ローレシア城はモンスターが近づくのは危険だからやめた方がいいとは言い添えた。
いずれにしてもご両親もそれなりに安心してくれて、スライムも月に何回かは実家に顔を出すことを条件に僕と一緒に冒険に出ることを許して貰えた。なんだかだいぶ気疲れした一日だったが、これでとりあえず、サマルトリアとリリザへの調査旅行に行けることになった。
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