第68話 地形

 見積りの日から数日が過ぎ、熊村さんがクマ電信電話移動通信KDDIの仕事を片付けてまとまった代休を取り、こちらの世界に来はじめた。鉄道てつどうを含めた全体のプロジェクトの件はまだローラ姫に報告してないが、城と現実世界の通信手段は一刻も早く確保したいとおれは考えた。そのため、とりあえず遠隔通話できる線を引く、という事をローラ姫に説明して、通信ラインの工事はおれ達の手持ち資金で進めることにした。遠隔通話と言ってもピンと来ていない感じだったが。


 当初、熊村さんは地形を把握するためにドローンを使おうと思っていたようだが、スライムが鳴くので手をかざしたら、「ドラキー!ドラキー!」と言ったので、おれはハッと気づいた。


 「熊村さん、ドラキーって言う蝙蝠コウモリみたいな感じのモンスターにデジカメを持ってもらって、飛んでもらえばいいよ!」

 「それだったら、ぜひレーザー測量器も持ってもらえると有り難いですね。」


 ドラキーに地形情報を収集してもらい、それを3次元の地形図に落とし込む作業が始まった。アンデッドマンの中にも賢い奴が居て、熊村さんから教えてもらって器用にパソコンで地形図を作っている。


 いっぽう、体力自慢のアンデッドマンは穴を掘ったり、重たい波付き鋼管外装なみつきこうかんがいそうケーブルの巻線を転がして運んだりしている。みんな戦闘用の鉄兜から工事用の黄色いヘルメットに変えて、頭が軽くなったと喜んでいた。


 ケーブル巻線は、結局大型免許をもっている熊村さんがユニック車をレンタルして秋葉原の羆谷電線くまがいでんせんの倉庫まで取りに行き、異世界との間に鉄板をおいて、鉄板の上をユニック車ごと異世界移動させることに成功した。


 「ケーブル巻線はかならず2人以上で運んでください。傾斜がある場合は特に注意して、プラス1名のを持った作業員アンデッドマンが必ずついてください。転がって他の人アンデッドマンに当たったら死んでても死んでしまうかもしれませんよ!」


 クマイが生き生きと安全指導をしている。いろいろと迷いがあったみたいだが、なんだか吹っ切れたようにここ数日は工事の方に熱中している。一部のアンデッドマンはユニック車の操縦にも興味を示しているようで、熊村さんが指導しながら作業をすすめている。


 工事は毎日朝7時から始め、午後4時には切り上げて引き上げるようにしている。そして、帰ってからはおれとクマイは事業計画のスライド作りをする。熊村さんは残業して地形図をつくっている。


 「クロイさん、クロイさん。」

 「ん、熊村さん、どうしたんだよ。」

 「全体地形を把握するために、ドラキーに頼んで高高度撮影をお願いしたんですよ。そしたら、ここと、ここに街みたいなものが写ってるんです。」

 「なんだ、これは?」

 「サマルトリア城と、リリザの街じゃないかな?」


 おれ達は振り返ってウサギを見つめた。


 「この世界にはローレシアだけじゃなくて、他にもたくさん街があるんだ。僕はまだそのあたりまでしか冒険したことが無いんだけど、海の向こうにはもっと色々な街や城があると聞いてるよ。」

 「その城や街とはどういう関係なんだ?」

 「いちおう友好的な関係だけど、モンスターが怖いからできてるのは勇者とか一部の人だけだね。」


 ウサギの言葉に割り込むように、クマイが突然言った。


 「それって、その街や城とローレシアの間に鉄道てつどうが出来たら安全で素早く移動できるってことじゃないですか!?」

 「これは旅客需要が望めるな!!」


 計画に明るいきざしが見え始めた。


 「こりゃ、事業計画練り直しだ! 現実世界とローレシアだけを結ぶプランAと、サマルトリア、リリザを経由して結ぶプランBで需要予測をやりなおしだ! 需要調査には実地のヒヤリングが不可欠だ、ウサギ、協力してくれるか?」

 「もちろんだよ!」


 ここのところ、特に関われることが無くてスライムの相手ばかりしていたウサギだが、自分に役割が出来てなんだか嬉しそうな顔をしている。


 「クロイさん、ところでスライムさんの事ですが…」

 「おう、どうした。」

 「もう、すっかり良くなったので、ローラ姫のウサギさんと相談して、家に帰してあげたらどうかと思うんですよ。」

 「そうだな、親御さんも心配してるかもしれないし、相談してみようぜ。」


 そんな感じで、おれ達は当番兵に取り次いでもらってローラ姫のウサギに会いに行くことにした。19時を回ったあたりで公務時間外だったが、ローラ姫は会ってくれるとのことだった。


 「クマイさん、先日の薬、効果あったわよ。でも不思議ね、睡眠薬なのに飲んですぐ眠くなるわけじゃないし、1日3回に分けて飲むし…」

 「ローラ姫のウサギさん、帰脾湯は睡眠薬じゃないんです。考えすぎで身体に起こった不調の原因、とくに「血」と「気」の問題を改善して、眠れるようにする薬なんです。言ってみれば、栄養剤みたいなものなんですよ。」

 「異世界には不思議な技術があるのね…」


 「ところで、本題にうつりたいんだが、スライムの事なんだが…」

 「もう外出して遠出して歩いても全然問題ないくらい回復したので、そろそろ元の場所に帰してあげたらどうかと思うんですが、いかがでしょう。」

 「もちろん、いいわよ。むしろ居てくれない方が住民も安心するし。」

 「じゃあ、例によって明け方とかに出発して返しにいくぜ。」


 「あと、いまボクたちの世界と通信するための通信ケーブルの工事をしていて、ツキノワグマが1名増えてるんですが、城の通行証を頂けますか?」

 「いいわよ、明日届けさせるようにするわ。」


 「あと、いま、この国の失業問題とか税収の減少とかに対応する方法を考えているんで、近々説明させてくれないか?」


 ローラ姫のウサギの目がキラっと光った。


 「いいわよ、どんな話?」

 「まだ計画中なんで詳しくはその時に説明したいんだが、要は王立基金をつくって、それで事業をやろうってことだ。」

 「わかったわ、スライムもいなくなることだし、看守長と刑務医官は辞任してもらうわ。そのかわり、クロイさんは私の政策顧問せいさくこもん、クマイさんは技術顧問兼侍医ぎじゅつこもんけんじいをやってもらいます。いい?」

 「おう、問題ねえぜ。」

 「ありがとうございます。」


 割とすんなりと話が通りそうで、良かったなとおれは思った。


 



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