第64話 会社
洞窟内を歩きながら、おれはこれまでの経緯を熊村氏に説明した。ウサギがこっちの世界へやってきて、おれ達が手伝うことになって、竜王を倒して、ウサギを帰そうと思ったら世界が繋がったことなどを話した。
「クロイさん… そういう事なら先に言っておいてくださいよ~。」
「だって先に説明したら熊村さん来ないでしょ!!」
「あ~! 前回もこれだった、そう言えば。」
前回は丹沢の奥地で電波が繋がらないところがあってクマたちが困っていて、キャリアに依頼してもなかなか動いてくれないという事だったので、おれが「ふもとからちょっと入ったところでもう一つ基地局が欲しい。」というプロジェクトを持ち掛けて呼び出し、あれこれ計画変更するうちに、結果的に奥地までケーブルを通して基地局を建てる話にしてしまったのだった。
「あの時も騙されましたよ~、でも、結果、
「あの時も、普通に話したら相手してくれないような工事でしたからね。」
「でも、クロイさんが毎日現場まで来て一緒にやってくれたので、その熱さにうたれました。」
「今回もまた
仕事の目になった熊村氏は、足元の硬さなどを確認しながら工事要領を考えているようだった。洞窟からでるとしばらくは平原地帯で、ここでも熊村氏は地面にニードルを刺して硬さを確認していた。そして、橋にでた。
「この
「う~ん、王国管轄って事で良いんじゃないかな。ローラ姫がいいって言えば、ケーブル通すのに使っていいと思います。」
「そういう世界観なんですか? 占用許可申請とかしなくていいんですか?」
「はい。ローラ姫がいいって言えば、一筆書いてもらって、終わりです。」
おれは真顔で言った。熊村氏は信じられないという顔をしているが、おれはそもそもここはおれたちの国の法規法令とは関係ない世界なんだと説明した。橋をじっとみていた熊村氏はしばらくまわりを見渡して言った。
「ここは架空配線にしましょう。」
「なんでですか?」
「この橋がどんな規格で、だれが整備してるのかわからないし、もし橋が壊れたり流されたりしたら通信も途切れますよ。幅はたいしたことないし、そこの広葉樹の大木どうしの間で架空配線にしましょう… いや、 もっといい考え方としては、分岐させて橋と架空の両方にラインを通し、バックアップ可能な回線としたらどうでしょう。」
「ボクはこの案に賛成です。多少コストアップしても仕方ないと思います。」
「おれもそう思う。」
「本当は、通信ケーブル専用の橋梁を作れればいちばんいいのですが。」
やはり、
再び隠してあった段ボール箱にスライムを入れた俺たちは、熊村氏に草むらに隠れていてもらって、いつも通り箱をかかえて裏口から城内に入った。そのあと、しばらくしてクマイが裏口の警備兵のところに行く。
「すいません、警備兵さん、クロイさん見ませんでした?」
「さっき、クマイさんと一緒に中に入ったじゃないですか。」
「なんか外に財布落としたかも、とか言ってまたさっき出て行ったみたいなんですよねぇ。ちょっと外を見てきます。すいませんねぇ…」
クマイは草むらに隠れていた熊村氏のところへ行って、「黙っていてください。」というと、裏口から堂々と警備兵の前を通って城に入った。
「んもぉ~、クロイさん、プイっとひとりで外に出ちゃダメじゃないですか! でも、お財布、見つかって良かったですねぇ。」
そんな臭い芝居じみたセリフを言いながら、クマイは熊村氏をつれて
「言った通り、
「ボク、なんだかヒヤヒヤしちゃいました。」
そんな顛末を見て、ウサギとスライムは一緒になって笑い転げていた。事情が分かってきた熊村氏も含めてひとしきり笑い、みんな麦茶でのどを潤した後で仕事の話になった。
「クロイさん、施工図を引きたいので二万五千分の一の地形図を下さい。」
「熊村さん、この国に国土地理院、あると思う?」
「ですよね(笑)」
前回の丹沢基地局プロジェクトもそうだが、熊村氏はこの仕事を「真面目にやってはダメだ」と割り切っている。大手キャリアの社員としては珍しい、この型破りなおれの計画につき合ってくれるからこそ、熊村氏に連絡したのだ。おれも、ひとしきり笑うとさっきまでのですます調の言葉遣いが崩れてしまい、いつものべらんめえ口調が出てきてしまう。
「これ、
「でも、
熊村氏はちょっとあさっての方向を向いてわざとらしい独り言を言った。
「いやぁ、先月までちょっと長期工事で海外出張してて、私、ちょっと有給たまってるんですよねぇ。でも休みの日にやること無くて… どっかに、通信工事のコンサルのバイトとか、無いかなぁ~。」
熊村氏のあざといセリフを聞いて、クマイもあざとい芝居を始めた。
「クロイさん、ボク、専門が機械なので通信の事は素人で… 勉強してワンランク上の技術者になりたいので、教えてくれるコンサルさんとかいないですかねぇ?」
「クロイさん、この世界の秘密は守りたいんでしょ?
まったく、見た目はクマのくせに、腹の中はタヌキばかりだ。もちろん、おれも丹沢一の大ダヌキを自認しているから、一も二もなくコンサル契約を結ぶことにした。
「作業員については、とびきり活きの悪い連中を確保してあるから、安心してくれ。技術はまだまだだが、やる気はある。」
クマイとウサギとスライムが笑いを押し殺しているのがわかる。
「そうと決まったら、クロイさん、通信ラインだけ通しても仕方ないでしょ。神社に高圧盤をおいて、電力も通しましょう。
「そこまでやるなら、城の住人とかモンスターにスマホをリースして、毎月の利用料金で回収する
ここで、ウサギが意外な提案をしてきた。
「ローラ姫を説得して、王室財産から基金をつくって、ドラクエ世界初の
「アンデッドマンさんだけじゃなく、街の住民の方々にも工事にご協力をいただいたら、少しでも失業対策になるんじゃないかとボクは思います。」
ブレーンストーミングのお手本のようにいいアイデアが集まってくる。こういう時は流れを止めては駄目だ。非現実的な話でもなんでも汲み上げておいて、あとで実務に落とすときに非現実的なプランは削ぎ落していけばいい。
「せっかくなんで、考えられることは何でも盛り込もう。なんでもいいからアイデアを出してくれ!」
「クロイさん、じ、実は考えていることがありまして…」
「おう、クマイ、えらく緊張してるな。どうしたんだ?」
クマイは少し深呼吸をすると、大きな声でこう言った。
「ボク、異世界に
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