第3話 弁当

 「そろそろ! お昼ですねぇ!」


 そういうと、京浜急行の下り快速特急のボックスシートの中で、クマイさんは崎陽軒のシウマイ弁当を3つ取り出した。ちゃんとペットボトルのお茶も用意されている。


「やっぱり横浜と言えばこれだよなぁ」

「やっぱりこれですよねぇ……あっ!」

「どうしたんだクマイ?」

「せっかく京急蒲田にいったなら、ぜひとも「你好ニイハオ」で水餃子を食べるべきでした!」

「ああ、あそこは美味しいからな。また今度いこうぜ!」 


 これは、この目の前にある弁当は剣と魔法の世界の食べ物なんだ! と言い聞かせながら、僕は崎陽軒のシウマイ弁当をつつく。甘辛く煮たタケノコと、マグロの照り焼き、冷めても美味しいシウマイが僕を現実の世界へ引き戻そうとするのと必死に戦いながら、僕はファンタジー世界の勇者の昼食としてのシウマイ弁当を食べた。


「辛子をつけても美味しいですよ?」

「僕、辛いの苦手なんだよ!」

「あ! それはすいませんでしたねぇ」


 そんなやり取りをしているうちに、快速特急は三崎口駅に到着しようとしていた。三崎口駅に着くと、駅前に神奈川県警のパトカーが数台止まっていて、いかついヒグマの警官が出てくると、クロイさんに近寄って話しかけた。


「お疲れ様です! 坊ちゃん、この度は通報ありがとうございました。」

「いや、おれも一般市民だからさ、坊ちゃんはやめてくれよ」

「失礼しました、クロイさん、地元署の捜査ではここから北西1.2キロ地点のキャベツ畑の農業倉庫にローラ姫のウサギが監禁されているようです」

「ことを荒立ててもなぁ、とりあえず、犯人と会話できるようにしようぜ」


 僕のアイデンティティである勇者の立場とかは無関係に、この現場では県警とクロイさんのペースで事が運んでいく。


「内偵の結果から見ても、どうも最近、王様と別れた王妃ウサギとの関係で、こじれているみたいですね」

「説得で投降、解放が一番いいよなぁ。竜王と被害者の関係は?」

「竜王は住竜会系の三次団体の構成員で、王妃ウサギの愛人みたいですね。どうもポン中だという話もあり、娘のローラ姫のウサギはとばっちりで監禁されているみたいです」

「ポン中かぁ…… 興奮させたらよくないぜ。飛び道具は?」

「フィリピン製の密造スカイヤーズピンガム、回転式のけん銃が複数、確認されています」

「うわ、それ、精度とか悪くて、一時期色々とヤバいって言われた奴じゃんか」

「そもそもボク、疑問があるんですが……なんで元王妃ともあろうお方が、覚せい剤中毒の反社と付き合ってるんですかねぇ……?」

「まあ、ほら最近はロイヤルな世界にもいろいろとあるだろ?  やんごとなき世界の人は世間知らずなんじゃないか?  あの人らも人間だからな……」


 戦闘のテーマとか、かいしんのいちげき! とか、回復魔法! とか、僕の期待する世界観と関係なく事がすすんでいく。ファンタジー世界にワイドショーの下世話ネタみたいなのを持ち込まないで欲しいと僕は思った。


 それはそれとして、一通り状況を確認すると、僕らは現場の倉庫が見渡せる位置まで近づいた。しかし、なんでクロイさんが県警にあれこれ指示できるのか僕は疑問に感じた。

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