第2話 鉄道

 もう、僕は言い争うのをやめて、自動券売機で500円のデポジット料を支払い、SuicaをチャージしてJR京浜東北線に乗ることにした。京浜東北線に乗ると、驚いたことに車内にアイアンアントがいた! 僕の頭の中で、即座にSやまこういち作曲の「戦闘のテーマ」が鳴り響く。


「ウサギの、こうげき!」


 僕の持つロトのウサギの剣が振り下ろされる瞬間、ブザーが鳴った。


 ブー・ブー・ブッブー!


「ええ、害虫発生ですねぇ。5号車、大船方よりにアイアンアントが一匹です。対応かた、よろしくお願いします」


 見ると、クマイさんが車両の端にある非常通報ブザーを押してマイク越しに車掌と会話していた。ブレーキがかかって列車がゆっくりと停車すると、すぐに殺虫剤をもった車掌がかけつけてきた。車掌は慣れた手つきでアイアンアントを始末すると、すぐに戻っていった。


「お急ぎのところ大変ご迷惑おかけいたします。ただいま、5号車にアイアンアントが発生したため、非常停止し安全確認を行いました。間もなく運行が再開します。お客様にはお急ぎのところ、大変ご迷惑をおかけしまして、申し訳ありません。」


「誰も噛まれなくて良かったですねぇ~」

「そうだなぁ。JRに殺虫剤とか防虫シートとか売れそうだなぁ」


 僕はロトのウサギの剣を手に立ちつくしていた。僕がバトルの末に倒して経験値とゴールドにするはずだったアイアンアントは車掌に駆除されて捨てられてしまったのだ。車掌のバトルの結果、列車は十二分の遅れで蒲田駅に到着した。


 蒲田駅でおりて商店街を歩く。西口の繁華街を少し過ぎたところに、ローレシアの城があった。都会の喧騒の中に突然現れるローレシアの城は、さながらTDLのシンデレラ城のように見えた。


「おお、ロトのウサギよ!待っていたぞ!」


 王様が声をかけてくれた! これですこし僕の世界観に戻れる!


「ロトのウサギよ、ローラ姫(のペット)のウサギが、竜王に連れ去られてしまったのだ。勇者のウサギよ、なんとかローラ姫のウサギを連れ戻してくれないか!」

「王様、お任せください!」


 と、なんだか横で携帯で話している声が聞こえる。


「あー、オヤジ、クロイです。なんか若い女のウサギが連れ去られたって話があってさ、ちょっとややこしい話みたいなんで、叔父さんにつないでくれる?」

「クロイさん、何をして…」

「あ、俺のオヤジのいとこがちょっと筋もんで、稲熊会に顔が効くから、ちょっとそっちで手配しようかと思って……うんうん、そう、はじいたり、さらったりしたらダメだから、あくまで警察を通してさ……」


 とりあえず見なかったこと聞かなかったことにして、王様にローラ姫のウサギの救出を約束した僕は、今度こそ本当の冒険に出る決意をした。


「あ、ロトのウサちゃん、ラッキーだぜ!叔父貴の若い衆が居場所の情報もってるらしいわ!」


 いやいや!いろんな村や町を回って情報を集めるんでしょ? ダンジョン行くんでしょ? なんでヤクザが勝手に姫を見つけてるのよ! あくまでドラクエ世界観を守りたい、 僕の中でいろいろな感情が渦巻く。


「頂いた情報を整理すると……どうやら現場は三崎口の倉庫ですねぇ。これは京浜急行で行動ですねぇ!」

「よし!  京急で現場に行くぞ!」


 僕は半分放心したような状態で京急蒲田から急行に乗って横浜に行き、そこから快速特急で三崎口へ向かった。心の中では、この世界のSuicaは私鉄もJRも共通で使えて便利だなぁ、などとやけくそな事を考えていた。

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