どうぶつクエスト

クマイ一郎

第1話 勇者

 僕の名前は「ロトのウサギ」、そう、あの伝説の勇者「ロト」のペットだったウサギの孫だ。伝説の勇者ロト(……のペット)の血を引くウサギとして、僕は竜王を倒してロンダルキアの地に平和を取り戻さなければならない使命を負っている。僕はツキノワグマ商人のクロイさんと、シロクマ僧侶のクマイさんをパーティに加えて、今まさに冒険に旅立とうとしている。僕は冒険の第一声をあげた。


「みんな、ついに冒険に出発する日がきたぞ! 準備はいいか!」

「ハイ、じゃあ皆さん集まってください。今日の朝礼と安全守則の確認、ラジオ体操やってから冒険にかかりましょう! 今日も一日、ご安全に!」

「いや、クマイさん、現場じゃないから……」

「何を言ってるんです! すべては安全からですよ! では、腕を前から上に上げて、のびのびと背伸びの運動~!」


 ファンタジーの世界、剣と魔法の世界に居るはずなのに、なぜだか、どうしても現実感が抜けない。どうもこのパーティ、というか世界観は少しおかしいのだ。異世界転生小説なんかが流行っているそうだが、僕はなんだか中途半端な世界にいるみたいだ。「僕はロト(のペット)の末裔だ」と心の中で三回繰り返す。そんなとき、クロイさんがスマホのカメラに向かって何か叫んでいた。


「皆さん知っていましたか? スライムの体の99.5%は水で出来ているんです! ですから、この『丹沢の銘水』を毎日1本飲むことで、いつまでも若々しいスライムで、あなたらしく人生をイキイキと… …(※ 人の感想です)」

「ちょっとちょっと、クロイさん何してるの!」

「見てわかる通り、実演販売だけど…… 初回はなんと30本で1500円!このあと! オペレーターを増員してお待ちして…」

「いや、スライムは敵でしょ!  倒さないと!」

「顧客を敵と思うのは、商売の負けはじめだぞ。販売者と消費者は、常にWin-Winの関係で……」


 いやいや、なんだかおかしい。僕は剣と魔法の世界でモンスターと戦って、ウサギの姫を助けるはずなのだ。僕は勇者だし、特別な血を引くウサギだから、魔法だって使える、そう、ライデインを唱えれば……


「ウサギさん!  ライデインは直流の場合は1500ボルト以下で0.2ミリ秒以内が安全規定値です。ご安全に!」

「うーん、その魔法で携帯が即充電できたら、一回100円のビジネスとして成立するかな……?」


 僕はいちいち反論するのをやめて、少し深呼吸をした。気を取り直して、まずはローレシアの城に向かうことにした。


「よし!まずはローレシアの城に向かい、冒険を始める。行くぞ!」

「えーと。ローレシアの城ですね!どうやら最寄りは蒲田駅ですね。京浜東北線で行きましょう。」

「なんで蒲田なんだよ!」

「いや、ウサギさん。スマホで検索したら、ここに蒲田駅西口から徒歩7分って書いてありますよ。」

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