第68話
「お邪魔しました。たくさんごちそうになって申し訳有りませんでした」
「もう、和泉ちゃん。申し訳なくなんかないのよ。また遠慮なく寄ってちょうだいね」
「お姉ちゃん、また遊ぼうね!」
「じゃね、瑞希ちゃん」
少しの間にすっかり打ち解けたようで何よりだよ。
「さて、行こうか」
「うん」
計画通り和泉を送っていく体で家を出る。バッグの中に双眼鏡、モバイルバッテリー、ハンディライト等々の観察グッズを詰め込んで持っていくのも忘れない。
「わたしが危ないんじゃ、誠志郎くんも危ないんじゃないの?」
「大丈夫だよ。ただ、建築現場には不法侵入だし、足場が悪いから危険なのは間違いないよ。あと万が一だけど津鬼崎かその仲間が襲って来たらやばくない?」
「だから、その場合は誠志郎くんだって危ないでしょ?」
「大丈夫。僕男の子だもん」
「理由になってねー」
警察の方も岩清水さん他2名の刑事、警官も3人を配備するし、場合によっては所轄からの応援も準備しているって話みたいなので多分平気だと思う。100パーじゃないけど平気っしょ。
「ほんんんんんっと気をつけてよね?」
「もちろんのおっけだよ。無理はしない。自分に不利益があったら意味ないもんね」
「じゃぁ、自分の部屋で報告連絡待っているからね」
「ん。いってきます」
薄暗くなる頃建築現場に着くとまだ現場は動いている最中だった。どう見てもあと30分でいなくなるとは思えないほど活動的に労働されている。
「現場が追い込みかけていることは想定しなかったなぁ。どうしよう……」
納期に間に合わなくなる見込みが出て今更慌てて現場に負荷かけてなんとかしようって足掻いているって感じなのかな。上の奴らはいつもそれだからな。末端が疲弊するのも気にされないものだ。
一周目のときは本当にそればっかりだった気がするよ。モラハラカスハラパワハラハラハラはら……。なんでもござれだったので二周目に自分が発注側になったときは気をつけたね。負のスパイラルは断ち切るに限る。
「さて。ここが駄目だとすると何処に行こうか?」
津鬼崎のアパートの国道のバイパス線挟んだ反対側だと建築現場と真正面のファミレスしかない。ファミレスで双眼鏡を覗いて観察するのはさすがにこっちが不審者過ぎる。となると……。
アパートの裏手にある公園しかないよな。ちょっと近すぎるけど、そこ以外だと逆に遠すぎて何も見えなくなってしまうところしかないんだよね。
「ま、こっちに被害が来ることはないだろうから近いところで観察って感じがいいかな」
実際に動くのは警察の方でこちらは邪魔にならないところから高みの見物って感じで状況だけ把握しておけばいいだろう。たとえ頼まれたって犯人検挙に手出しはしたくないもんね。
ただベンチに座っているだけだと若干不審に見えるので早速和泉に電話して、電話するために外にいる、っていう雰囲気を醸し出しておくことにする。
この近さなら双眼鏡とかも必要なかったな。肉眼で302号室のドアまでしっかりと見えている。因みにだけど、警察の車らしき駐車車両はところどころに停まっているけど知らぬふりをしておくに限ります。
「もしもし」
「あれ? 早くない?」
「うん。ちょっと予定変更なんだ。例の場所が使えないんでアパートの裏の公園いるんだけど、何もしていないとおかしいんでちょっと早めから付き合ってくれるかな?」
「それは構わないけど、そこって危ないところとかじゃないわよね?」
「んー大丈夫じゃない? 直線距離で50メートルくらい離れているし」
津鬼崎もさすがに銃火器は持ってないだろうし、警官の方も発砲は場所的にないと思う。ならまず安心安全ってところだろう。
特に現場から実況することもなかったので和泉と明日からの学校の予定なんか話していたら、とうとう津鬼崎がアパートに入っていくのを確認することが出来た。時刻は7時8分だいたい予定通りの模様。
周りにいる警察車両からも緊張感が伝わってくるけど、気にしない風に努める。ここでバレて僕が排除されては意味ないからね。なんか警官の一人がこっちのこと気にしているみたいだから気をつけよっと。
少し大げさ気味に和泉と会話を続ける。警官を欺くためちょっといちゃついたような会話するのは恥ずかしいけどちちょっと楽しかったりする。ほんとうの意味でこういう会話できたら毎日が楽しいんだろうな。
「あれ? 和泉、電話の調子おかしくない? なんだか音声が二重に聞こえる気がするんだけど」
「そうだね。だってね……へへ、来ちゃった」
「わぁ……びっくりした。なんで来たの?」
「危なくないんでしょ。だったら公園で待ち合わせしてデートしてますって感じのほうがいいかなーって思ったの。どう?」
和泉は僕にピッタリ寄り添って腕に抱きついくる。意識がアパートから全部和泉に向かいそうになった時、取り巻きの3人がアパートに入っていったのが見て取れた。
「和泉。いよいよ始まりそうだよ」
耳元でささやくと和泉は顔を真赤にしてしまった。
あれ? いまのになにかそういう要素あった?
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