第67話
まだ遊んでから帰るという遠藤を置いて僕は和泉を連れて自宅に向かった。
因みにだが皿元は僕のすぐ後ろの席に座っていた。この頃は未だおとなしそうな普通の女子だった。付き合う男次第であんなになるなんて思いも寄らないよね。
「ご、ご両親はご在宅なの?」
「ん? 父さんは仕事。母さんはどうだろ? 入学式には来ていたみたいだからもしかしたらいるかもね。瑞希は多分家にいるよ」
瑞希も始業式だったから午後は家にいるはず。遊びに行ってなければだけど。
「お母様と会うのは初めてだから緊張しちゃうよ」
「あれ? あったことなかったっけ。そんなに緊張するような親でもないから気楽にね」
「そんなの無理。高校入学の初日に女の子連れて帰るってこと理解できているの、誠志郎くん?」
「…………言われえてみればそうかも。陰キャな僕がいきなり女の子連れて帰ったら――まいったなぁ。すっかり忘れていたよ」
「…………」
「は、はじめまして。誠志郎くんのクラスメイトになりました飯館和泉と申します。今日は、えと、お邪魔します」
「あっ、はい。誠志郎の母です。どうぞごゆっくりしていってくださいな。ちょっとせいくんがこんなにも可愛らしい女の子を連れ帰るなんて……今日は御赤飯炊かないとね」
母さんが一瞬無言になったのは驚いたけど、まぁ驚くよね。我が子ながら僕はあんなだったし、どう考えても女の子と縁があるなんて思いもよらないだろうし。
「ここが僕の部屋。ちょっとお昼ご飯用意してくるから少し待っていてくれる? 書棚に漫画あるから暇だったらみててもらっていいかな?」
「うん。お昼ご飯って誠志郎くんが作るの?」
「ああ、一人暮らしも長かったし二周目はけっこう余裕あったから料理を趣味にしてたんだよ」
簡単で手早くできるのが頭に浮かんでいるのでそれをサクッと作ってしまえばいいなと思っている。
キッチンで用意をしていると母さんが近づいてくる。
「せいくんが女の子を連れてくるなんて明日は雪かもね。で、何しているの?」
「急に悪かったね。仲良くしてくれている女の子だからよろしくね。あと昼ご飯作るから材料もらうね」
「せいくん、今日はどうしちゃったの? せいくんが台所に立つなんて初めてじゃない?」
「そ、ソンナコトナイヨ。母さんたちの分も作ろうか?」
口が滑って余計な事言う前に料理に集中してしまうことにした。ちゃんと誤魔化せたかはわからない……。
さて、作るのはオムライス。
鶏肉でチキンライスを作るのは面倒なので、鶏肉の代わりにウインナーを使う。あとは玉ねぎとピーマンをみじん切りにして炒めてご飯と混ぜる。
ケチャップは目分量でドバーッと入れて、一旦更に取り出しておく。
フライパンに卵液を一人前ずつ流し入れて焼いてはご飯を包んで出来上がり。一気に4人前作ったから少し気に入らない出来だけど食べられないことはないので完成とする。
「お母さんより手際が良いんじゃないの?」
「そんなことないよ。母さんには負けるって。じゃ、自分たちの持って行くから、こっちは瑞希と一緒に食べてね」
ボロが出る前に退散する。
「おまたせ和泉ご飯だよって、何しているの?」
「えっ? エッチな本とかないかなぁ~って探していたんだけど上手く隠しているようで見つからないのよ」
「そんなモノないよ」
「やっぱり今どきはデジタル? そのパソコンの中にお宝が眠っているってわけね」
図星なので答えには窮するが、手に持ったお昼ご飯で強引に話を引き剥がす。
「そんなことより、冷めちゃう前に食べようよ。適当に作ったから味の方は微妙かもしれないけど食べられないことはないとおもうよ」
「わーい。誠志郎くんの手作り料理だあ~早速いただきまーす」
食後はゲームをしたり漫画を読んだり。あとは二周目の離れ離れになっていたときに何をしていたかなどを話していたらあっという間に夕方になってしまった。
二周目の和泉は専門学校を卒業した後に食品会社に就職して管理栄養士の仕事をしていたんだって。料理も得意だってことで僕のあんな料理じゃ恥ずかしい。変に自慢とかしなくてよかった。
いくら話をしても話のネタは尽きることがないが、夕飯の時間になったので母さんが和泉にも食べていってもらいなさいという。
「うちの夕飯ってちょっと早いんだ。瑞希ベースで動くから。未だ日も沈みきってないけど大丈夫?」
「お母様の料理も食べたいわ。しっかりと佐野家の味を習っておかないとね」
「習う?」
「誠志郎くんは気にしなくていいの! ささ、お手伝いに行きましょ」
よくわからないけど、夕飯を一緒に食べたあとに和泉を送っていけば捕物には丁度いい時間帯になるのは間違いない。
台所ではめったに手伝いなんてしない瑞希まで母さんの手伝いをしているのには驚いたが。
和泉も楽しそうに母さんと一緒に料理をしている。
「なんかいいな、こういうの」
僕は邪魔だと言われたのでダイニングテーブルに座って料理している3人の後ろ姿を眺めている。
あと。赤飯は本当に炊いていた……。
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