第65話
アジトを見張っていてわかったことがいくつか。
まず津鬼崎は3日に一度くらいの頻度でアジトに来る。中で何をやっているのかは全くわからないけど、多分大麻草の世話だと思う。
津鬼崎が最初に来て1~2時間過ぎたあたりで取り巻きと思われる野郎どもがチラホラと現れる。その中に例の大輝がいることも和泉により把握した。
「サンプル数は少ないけど、月水金の週3日。時間は夜の7時ころに津鬼崎は来るね。で、9時頃までには取り巻きの手下らしき野郎が3人くらい部屋に入っていく、と」
津鬼崎の見た目は如何にもワルって言う感じではなく、どちらかと言えばそういう印象から程遠いごくごく普通の高校生って感じの印象。ただ、目つきだけはものすごく悪い。
それを隠すのに多分メガネを掛けているのだと思う。メガネ無しで普通に歩いていることもあったからあれは絶対に伊達メガネに違いない。
反対に取り巻きの3人はもうそれはそれは如何にもっていう見た目。悪いことしてますーっていうのが態度ににじみ出ているのがよくわかった。
背の高いのが大輝ってやつ。スキンヘッドの中肉中背はミヨシというらしい。小太りパンチパーマはパンチという。というかパンチ見たまんまじゃん。
「だって、そう呼ばれていたし本当の名前なんか知らないもん」
「まぁいいって。どうせ名前なんか関係ないし、見た目で警察も判断するだろうから通報の時は特徴を伝えれば済む話だと思うよ」
「そういえば思い出したことあるんだけど、津鬼崎の誕生日なんだけど『俺の誕生日はザビエルと一緒だぜ』的なこと言っていたんだけどそれっていつだか誠志郎くんはわかる?」
「ザビエル?」
ザビエルといえば一人しか思い浮かばないけど、あのザビエルなのか?
「ザビエルの誕生日って言っていたと思うんだよね。その時周りにいた人たちはザビエルがなにか分からなくてポカーンってしていたけどね」
「ちょっと調べてみる」
スマホで【フランシスコ・ザビエル 誕生日】と検索してみる。
「わかった?」
「ああ。4月7日だな、本当なのかどうかは知らないけれど説明には4月7日生まれと出ているね。津鬼崎が成人するのはこの日で決定だな」
ただ7日はアジトに来ると思われる曜日とは異なるので来ない可能性のほうが大きい。それに自分の誕生日なのに葉っぱに水あげしているのはさすがに虚しいと思うんだよな。
たぶんだけど仲間にでも祝われているんだと思う。ああいう奴らってそういうイベントごと好きそうじゃない?
ならば決行の日付は4月8日に決定だな。
「でも8日ってわたしたちの入学式だよ? ということは津鬼崎だって始業式じゃないかな?」
「いや、イベントごとが好きならば、取り巻きの大輝の入学を祝してなにかやるに違いないと思うんだ。で、あのアジトに集うみたいな」
「祝うならカラオケとかじゃないの?」
「それはそうだろうけど、水やりもしないと植物が枯れては元も子もないだろ? だからまず絶対にアジトには集まると思う」
タイミングを外しては外にでかけてしまう可能性も考えられるからチャンスは一度きりかもしれない。
「えーでもそんなに調子良くケーサツの人来てくれるのかなぁ。あの人達実はあてにならないってことあるじゃない?」
いちばん大事なところがいちばん信用ならないのは確かかもしれない。あの時の花楓の捜査だって碌なことしてなかったもんな。
警察に対する不信感がないかと問われたら、ない、と断言できるだけのものはないと言いきれる。ならどうすればいいんだ?
「あ。あの人はどう?」
「あの人?」
「あの人だけはすごく親身になっていろいろ相談に乗ってくれたし、カエデちゃんのことだってすごく心配してくれていたでしょ?」
「ああ、あの人か。えっと……なんだっけな、名前。岩田じゃなくて……岩見? 岩下……。岩なんとかって名前だったよな」
「んー……。あっ、岩清水さん! 岩清水さんだよっ」
「そっか。岩清水さんだったな」
岩清水さんは花楓誘拐監禁レイプ事件の担当刑事さん。他にも何人も警察官や刑事さんはいたけれどいちばん僕らに寄り添ってくれた刑事さんだった。
たしかにあの人だったら警察でも信用して頼むことはできると思う。僕の経験上でもああいう人は僕らみたいな者でも疑ったり訝しがったりして相手にしないという行動は絶対にとらない。
「でも連絡先なんて知らないよね……」
「いや。岩清水さんはあの警察署に勤続20年のベテランだって言っていたから、今はすでにあの警察署にいるよ。警察署の電話番号くらいは調べればわかるし」
うん。あの人だったらちゃんと僕らの話を聞いてくれそうだ。その時よりも数年遡っていることになるけれどそう変わりはないだろう。早速連絡を取ってみることにしよう。
なんとなく目処がたったところで僕らの高校入学の日がやってきた。
そして今夜が、計画実行の日になる。
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