第62話

 時間が経過していたり、他のことに気が回りすぎていたりして今の今まで気づかなかったけど、もしかして僕らが花楓と関係を持たなければ花楓は無事無傷なまま高校生活を遅れるのではないだろうか。


「それはそうなんだろうけど、誠志郎くんはカエデちゃんと友だちになりたくないの?」

「それは……友だちになりたい、よな」


 二周目で過ごした花楓との思い出はかけがえのないものだった。ここで、花楓との縁を切ってしまえば花楓が事件に巻き込まれることもなく平穏無事なのかもしれないけど、彼女自身は陰キャな3年間を送るだけになる可能性は高い。一周目の花楓は僕が言うのもなんだけど、かなりの人見知り陰キャで僕以外の人間とは殆ど話さえしないようなコミュ障でもあったからね。


「悩ましいな。じゃあ、和泉が遠藤とか皿元と仲良くしないっていうのはどう?」

「あの二人とは最初、教室での座席が近いことで仲良くなったから、それをあからさまに無視するのはちょっと違う意味で問題になりそうだよ」


 他の3人、嶋村、瀬長と鈴木は1年時別クラなのでとりあえず放置で構わないと思う。ただ遠藤と瀬長が元からの知り合いだったようなのでそう遠くはない時期に和泉と繋がってしまう可能性も否定できないけど。


 あと和泉はもうギャルは懲り懲りだというので、今周回はありきたりなJKファッションで望むつもりだそうだ。ありきたりなJKファッションってなんだろう?


「でも和泉がギャル化しないなら、2年生になってあの変な半グレ野郎とも関わらなくなるだろうし、大丈夫じゃないか?」

「わたしが関わらなくても瀬長とかが関わると下手すりゃこっちもまた被害を受ける可能性は否定できないと思うけど?」


 遠藤とかと縁切りできないとなると可能性はゼロには出来ないのか。そうすると、半グレと、確か皿元の彼氏の大輝とかいうやつを切り離さないと安心安全は確保できないってことなのか。


「そういえば、その大輝ってやつは何処のクラスなんだ?」

「ああ、そいつは別のガッコだよ。大輝ってのは優里を通してしか知らないけど、図体のでかい馬鹿だけど悪い知恵だけは聞く嫌な奴だよ。で、そいつの2年先輩っていうのが例の半グレの下っ端野郎なんだよ」


 大本の半グレを解体するのがベストなんだろうけど僕たちには無理そうだし、ならばどうするのがベターなのか見つけ出さないとな。


「あっ、来たよ! カエデちゃん」

「!」


 まだ中学生の花楓。非常に幼く感じるがあれは花楓で間違いない。僕はあのままの花楓を守らないといけないんだと再度心に誓う。


「元気そうだね」

「僕が言うのもなんだけど、相当地味な感じだけどね」

「わたしらと遊ぶようになってからだもん、普通なJKになったのは。それまでのカエデちゃんってあんなんだったんだね」


 初めてハンバーガーショップ、マッコに連れて行ったときは面白いくらいに感動していたよな。思い出すだけでおかしくなる。


「何微笑んでいるのよ? 誠志郎くんはわたしよりもカエデちゃんのほうがいいんでしょ?」


 なにそのカノジョみたいなセリフは? 嫉妬ですか? 和泉はどうせ僕のことは仲のいい男友達ってくらいにしか思っていないのだろうけど、そういう事言われると僕はなにか勘違いしそうになるから、ホントやめてほしい。


 僕たちは花楓が図書館の中に消えていくまであとをついていった。

 その間和泉は僕の腕に抱きついて、恋人のふりをしていたけどそこまでくっつかなくても花楓にはバレないと思うけどな。僕の意識は花楓よりも腕から感じる和泉の柔らかな場所にばかり向かってしまい困ってしまう。


「よし。この三周目の世界線でもカエデちゃんの存在は確定したね。そしたら次は何する?」

「うーん。特には思いつかないんだけど、他の『関係者』の動向を今探っても何もないと思うんだよね。実際のところ」


「ふーん。じゃぁあれは?」

「あれって?」


「半グレの下っ端構成員で大輝の先輩、名前はえっと、確か津鬼崎つきざきとかいったはず。そいつの様子でも見にいってみる?」


 ここに来て初めて名前を聞いたけど、津鬼崎ね。どうせ暇だし、こっちから接触を試みない限り今のところ無害だと思うし、見たら見たでなにか思いつくかもしれないからそれもいいかもな。


「和泉はそいつが何処にいるかとか知っているんだ。そっか。おっけ。和泉がそいつのこと知っているのは驚きだけど確認してみようか」

「何度もそいつのところに通ったからね。ほんと思い出したくないほど憎たらしいけど、万が一にもあいつを貶める方法があったりしたらラッキーじゃない? 誠志郎くん、任せたよ!」


 えっ?! なにその無茶振り!

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