第61話

 現在は最初のタイムリープの時よりも更に時間を遡った高校の入学直前。未だ身分としては中学生だ。過ごしてきた時間だけみればすでにアラフォーだと言うのに自分の姿形は中学生だとものすごく違和感がある。


「こんなに落ち着いちゃっている中学生なんていないよね」

「さっきまでビービー泣いていた和泉がそれ言う?」


「う、うるさいわね。若い身体に精神が引っ張られただけよ」

「未だこっちに来て数時間だって言うのに大した引っ張られようだね」


「もうっ、誠志郎くんが意地悪になっている!」


 別に意地悪しているつもりはないのだけど?


 たしかに和泉の言うように気持ちが落ち着いているのは実感する。不惑の四十とはよく言ったものだと思う。どっしり構えて早々簡単に惑うことなんてない気がする。

 ブラックな人生を10年、ホワイトな人生を10年。まあいろいろと経験させてもらってきている。その経験が活きているのだろう。

 だからこの世界に戻った時和泉に連絡が取れないからって考えなしに彼女の家までダッシュするなんて無謀なことはしなかった。あれってかなり冷静だったってことじゃないかな。

 そんなことを客観的に分析している時点でそれなりに落ち着き払っているってことなのだろうけど。


「さて、話を戻すけど今日は高校の入学式の2週間前ってことであっているよね」

「そうだね。随分と前の方に遡ったわよね」


「うん。それって何か理由ってあると思うか?」

「理由? 目に見えないカミサマ的な誰かの算段があるってこと?」


「の◯太のところに猫型ロボットが寄越されたみたいに未来人が歴史を改変しようと僕らにタイムリープさせているってことかもよ?」


「そのたとえがよくわからないけど、とりあえずはこのウェーブには乗っておけってことじゃないかしら」


 僕も和泉が何を言っているかよくわからないけど、まあこのまま僕たちの思うがままに望む方向に向かえばいいってことで問題ないでしょ。

 僕らは僕らなりにやるしかないと思う。ゲームのクエストじゃないけど、目的を示してくれなきゃそれに即した行為は無理ってもの。



 今日はすでに夕刻となっているので動き始めるのは明日からって約束をして帰宅することにする。用事が思いついたらもう連絡手段は整ったから大丈夫だろうし。


「ああ、連絡くれてもすぐに応答は出来ないかもだからごめんね」

「なんで?」


「このスマホ、今夜は瑞希に遊ばせてやる約束なんだ」

「ああ、瑞希ちゃん! どう? 可愛かった?」


「むちゃカワイイ。一日中甘やかしていても飽きないと思う」

「こっわ。アラフォーのおっさんがJS幼女を愛でるなんて、事案よ、事案」

「妹なんだけど……いちおう肝に銘じておきます」



 翌日。

 和泉との約束は午後からだったので、午前中のうちに髪を切ってしまおうと美容院に向かう。前回と同じbo-omってところで切ってもらうことにした。

 さっぱりしたあとは自宅にまた帰るのも面倒だったので、昼食をひとりマッコで済ませそのまま和泉の家に向かう。


 もう前回の流れを踏襲するとか、前回や一周目の流れを変えてやろうとか余計なことはもう考えない。今回を最後にして大団円を迎えるつもりとしか言いようがない。


「おっ、さっぱりしたね。昨日のは久しぶりに見たけどかなりヤバめだったもんね」

「そんなに酷かった?」

「言っちゃ悪いと思って言わなかったけど、あれは病的にヤバめだったよ」


 僕そのヤバめなので一周目はずっと過ごしていたんだけど……。やっぱりそう思っていたんだなぁ……。過ぎたことだけどけっこう凹むわ。


「で、いい案は浮かんだのか?」

「それは……無理でした!」

「そこまで堂々と言われるとなんか清々しいな」


 実は今日、こっそりと花楓の家に行って彼女の様子を伺ってみようって話になっていたんだ。

 いま時点で僕たちと花楓との間にはなんの接点もない。

 中学校の先輩後輩の仲でもないし、ましてや高校の先輩後輩でもない。向こうから見れば見知らぬ年上の男女、というだけだ。

 そんなのが馴れ馴れしく話しかけた日には、人見知りを拗らせている花楓はそのまま恐怖に慄いてしまうに違いない。

 だから、何らかの作戦が必要だったんだけど『わたしに任せなさい』と豪語した和泉は結局のところ無策のまま花楓の家のそばまで来てしまったというわけ。


 僕的には花楓の元気な姿さえ見られればそれでいいので、和泉の無策さぶりに苦言を呈すこともない。


「とりあえず、カエデちゃんの家の前にある公園で彼女が出てくるの待ってみようか?」

「出てくるとは限らないだろ? あいつ、超がつくほどインドア派だぞ?」


「で、でも。図書館にはよく行っていたって話していたでしょ。だから今日も図書館に行くはずだよ。たぶん」

「そんな話していたか?」


 僕には覚えがないのだが。高校に入って文芸部に入部するくらいだから本好きなのは間違いないだろうけど。


「ね? それまではそこのベンチでなんちゃって恋人ムーブでもして過ごしましょ? 桜もきれいだよ」


 恋人なんて言葉を和泉の口から聞くとどうしてもドキリとしてしまう。

 今はまだこの気持ちを水面に浮かす時期じゃない。と、思っている。やはり花楓の件がなんの滞りもなく無事に済めば、その時初めて考えることだと思っている。


 あれ? でも花楓って僕たちと変な関係持たなければ何も危険なこと起きないよな?

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