第60話
家に帰ると早速wire-upをインストールした。自分のIDも以前と同じにする。
(以前って言い方も変だよな。時系列的には未来の出来事になるんだもんなID作るのは……)
和泉のIDを入れて、音声通話のコールをする。メッセージを書くより早いと思うのでそうしてみた。
「(ちゃんとコールしているってことは、和泉もIDを作っていてくれたってことだよな)」
和泉がこの世界にいる、ということを確信しながら5コールほどするとついに繋がった。
「も、もももも、もしょもち。しぇいしろーくん? 誠志郎くんだよね!? 和泉だよっ、ねー! そうなんでしょっ?」
めちゃくちゃ大慌てで噛みっ噛みの和泉が電話口にでた。
安心したし、興奮もしたけれど、和泉の慌てっぷりがすごすぎてかえって冷静になってしまった。
「うん、そうだよ。誠志郎、佐野誠志郎で間違いないよ。和泉」
「もうっ、何度も連絡したのに全然繋がらなくてすごく心配したんだからね! なんでそんなに普通に話しているのよっ」
和泉にはスマホを未だ持ってなかったのと、和泉の携帯電話の電話番号を知らなかったから家電でもすぐに連絡できなかった旨を伝えてなんとか納得してもらえた。
和泉と会うために待ち合わせの約束をして家を出る用意をする。
話をするなら対面でしないとな。これからする話は大事なものになると思うから。
「瑞希、ちょっと出かけてくるから留守番頼むな」
「えースマホ貸してくれないの?」
「帰ってきたら貸してあげるから、何をしたいか考えておきな」
「うん。それで、出かけるっていうのは女の子と待ち合わせ?」
「……まあ、そうだな」
「え? 嘘。お兄ちゃんに女の子の友達なんていたの?」
なんだかすごく失礼だけど、今の僕は髪の長い陰キャボッチ風情に逆戻りしているので否定が出来ない。
あしたには髪を切ってこよう。慣れるとこの髪型は非常に不快なのがよく分かる。髪が目に入って痛いしね。
久しぶりに来た和泉の家。
変わっていない、というか記憶よりも新しく感じる。当然か。記憶しているよりも過去に来ているんだもんな。
インターホンを鳴らすとすぐに和泉が出る。まさか待ち構えていた?
「誠志郎くん!」
ドアがガバっと開くと、和泉に腕を掴まれ玄関内に引きずり込まれる。
「うわぁ」
中に入るやいなや和泉は僕に抱きついてくる。もう全身をぐっと押し付けるように力強く抱きしめられた。
気持ちはわかるし、僕も同じ気持ちだったので和泉と同じように、だけど優しく抱きしめる。
和泉は泣いているようだった。時々嗚咽が漏れてくるし、僕のシャツが和泉の涙で湿っていくのも分かっていた。
暫く玄関で抱き合ったあと、和泉が落ち着いてきたので場所をリビングに移した。
「ごめんね。こっちに来てから何時間も連絡がつかなくてすごく不安になっていたから」
「不安にさせて、こっちこそゴメン」
携帯電話がないことも考慮して連絡手段くらいは前もって打ち合わせしとくべきだったかな。まあ、あのときはそのまま飛び降りたし無理だったろうけど。
「ねえ、間違いなく誠志郎くんだよね? あの誠志郎くんで間違いないよね」
「ああ、僕はあの誠志郎だよ。君と一緒に時間を遡ったのは僕で間違いない」
「良かったぁ……」
そう言うとまた和泉は僕の身体に撓垂れ掛かかって来る。僕たちはいまソファーに座っているところ。
さっきの玄関でもだけど、久しぶりに和泉の香りを嗅ぐとなんだかおかしな気分になりそうで困る。今日はそういうので来たわけじゃないんだから。
いや、もとよりそういうのでは和泉んちに来ないけど……。来られたら来るかな……ってそうじゃない!
「い、和泉。まずは状況の確認と今後について話し合おう」
「ん。でも、もうちょっとこうしていたい……」
「えと……じゃ、じゃあもう少しな」
前回、高校でクラスが離れ離れになった頃から自分の気持ってやつに気づいていた。でもそのままでは駄目だって、想いは心のずっと奥底に沈めてただ只管に花楓のことだけを考えて行動していた。
いざ実行となったら想定外のことが起きて、でも嫌じゃなくて、寧ろ嬉しいとか思うほどで。この世界に一緒にやって来られたのも最高な気分だし、もうこのまま余計なことなんてしないで和泉と一緒にいられたらいいのになんて考えている。
あぁ。
やっぱり僕のこの気持ちってやっぱり……。
花楓のことも気になるけど僕的には、なんというか、花楓のことは気になるって意味合いが庇護の対象っていうか瑞希とは違う意味で妹のように感じている。だからこそ命をかけてでも助けたいって思ったんだよな。
花楓が僕のことを慕ってくれているのはわかるが、それが兄のように思ってくれているかはわからない。とにかく、僕としてはそんな感じだ。
今回のターンでも花楓に会うことがあれば、というか会うつもりだけど、そういう流れになればいいな、なんて楽観的に考えていたりする。
「そろそろ、本当に話をしよう」
断腸の思いで和泉を引き離す。眼の前にある和泉の濡れた唇に視線が伸びそうになるのを必死に堪える。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。さぁ、現状の確認からだね」
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